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書籍名

講談社選書メチエ 人口の経済学 平等の構想と統治をめぐる思想史

著者名

野原 慎司

判型など

336ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2022年11月10日

ISBN コード

978-4-06-529749-0

出版社

講談社

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人口の経済学

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本書は、人口が経済学においてどう論じられてきたのか、その背景となる社会的理想は何かを研究した書である。
 
本書の第一の目的は、人口についての経済学における議論の見取り図を示すことである。過去にも同様の目的の書はあるが、個別の経済学者についての近年の研究の進展 (の少なくとも一部) を踏まえた上で、通史的に経済学の中での人口の役割を論じることが本書の課題である。人口が経済学でどう論じられてきたのかの歴史的変遷の見取り図を示すことが本書の課題である。
 
それが関わるのは、本書の目的の第2である、人口の経済学での位置を捉え直しである。とりわけ、人口という発想には、人の数の統計的把握が含まれ、それは、人の数を把握する存在としての統治や、人の数に影響を与える存在としての制度を伴う。本書が課題にするのは、統治による人口の「上からの」統制がいかに思考されたかよりも、統治や人口が基礎を置く制度はどう認識されていたのかという点である。人口の経済学での役割を考える場合には、制度の問題に注目する必要がある。それは、経済学の歴史そのものを考え直すことにつながる。
 
本書の第3の目的は、近現代の人々の人口の経済の中での位置についての思考を問い直すことである。近代以降も、人口についての考えは大きく変遷したが、一方では、過剰な人口が経済的にマイナスの影響を与えるものとして危惧され、他方では、人口の減少もまた経済的にマイナスの影響を与えるものとして危惧されてきた。こうして、明示的に意識はしない場合でも、暗黙のうちに、適正な人口の増加が経済的に良い影響を与えるものとして、近現代では考えられる傾向にある。そして、人口増加率の管理のために、結婚政策、出産・育児政策など国家の政策が用いられている。人口が過度に増加する場合には産児制限が、人口が減少している場合には出産促進策や移民政策が用いられる傾向にある。今日の資本主義社会は、基本的に個人の経済活動の自由を尊重し、婚姻の自由や移動の自由も尊重するが、他方で、人口は国家政策によるコントロールの対象となっている。むしろ、人口増加率の適正な管理が、経済の円滑な運行の前提と想定されている。そして、その管理の背景には、人口が基づく制度についての認識がある。人口は、現代人が経済活動の自由を論じる場合には必ずしも俎上に載らないが、経済社会の基礎となっている。市場での商品や労働の売買が自由に行われても経済的調和がもたらされるという市場メカニズムを主眼に置く現代の経済学および人々の経済的思考では、人口は通常は影に隠れた存在となるが、それでも、長期の経済成長には、適正な人口増加は重要なものとして登場し、その人口増加は制度によって左右されるのである。
 

(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 准教授 野原 慎司 / 2023)

本の目次

序文

第一章 重商主義の時代 人口論の射程の広さとデータ主義の起源
1. はじめに
2. ペティ:人口を測る
3. 重商主義と人口
4. おわりに
5. 補説:ベーコン主義

第二章 スミスの時代 自由と平等の条件と、経済学の生成
1. はじめに
2. モンテスキュー
3. ヒューム・ウォーレス論争
4. ステュアートとケイムズ卿
5. スミス
6. おわりに

第三章 マルサスと古典派経済学 フランス革命後の統治論の平等論的転回
1. はじめに
2. コンドルセとフランス革命
3. ゴドウィンとフランス革命
4. マルサス
5. リカードウ
6. J・S・ミル
7. おわりに

第四章 ケインズと転換期の経済学 人口減少論の勃興
1. はじめに
2. マーシャル
3. 優生学
4. ケインズにおける人口変動
5. 成長理論と人口:ハロッドとソロー
6. おわりに

第五章 現代の経済学 人口法則とその統治論的含意
1. はじめに
2. 人口転換論
3. 現代経済学と人口論
4. 世代間所得移転
5. 経済の成長と長期停滞
6. おわりに

結語

参考文献
索引

関連情報

書評:
森岡邦泰 評 (『図書新聞』3591号 2023年5月20日)
https://toshoshimbun.com/product__detail?item=1703316323912x414249522579249700

橘木俊詔 (京都大学名誉教授) 評「共感できる「不平等是正」」 (公明新聞電子版 2023年04月03日)
 
本村凌二 (東京大学名誉教授) 評「人口爆発と少子化への対処は歴史から学べ」 (週刊エコノミストOnline 2023年3月31日)
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20230418/se1/00m/020/014000c
 
牧野邦昭 (経済学者・慶応大教授) 評 (本よみうり堂|読売新聞オンライン 2023年2月17日)
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/review/20230214-OYT8T50074/
 
前田裕之 (学習院大学客員研究員) 評「学者は「人口」にどう向き合ってきたか 歴史から学べる本」 (日経BOOKプラス 2023年2月3日)
https://bookplus.nikkei.com/atcl/column/122100175/012000004/
 
書籍紹介:
野原慎司「人口減少を予見して、ケインズは資本主義の制度変更を提起した! 社会の平等化と所得分配という対応策」 (現代ビジネス|講談社 2022年11月14日)
https://gendai.media/articles/-/101642
 
野原慎司「人口問題と資本主義社会の危うい関係! 〈制度〉の見直しが重要だ J・S・ミルが示す古典派経済学の臨界点」 (現代ビジネス|講談社 2022年11月14日)
https://gendai.media/articles/-/101641
 
野原慎司「富裕層から庶民中心の経済へ――人口増加の原動力としての自由と平等 アダム・スミスの「人口論」を読み返す」 (現代ビジネス|講談社 2022年11月14日)
https://gendai.media/articles/-/101640
 
野原慎司「17世紀の経済思想を探れば、人口問題の広大な裾野が見えてくる 食・職・生殖・価値観・政治体制……」 (現代ビジネス|講談社 2022年11月14日)
https://gendai.media/articles/-/101638
 
野原慎司「人口問題をどうする? 経済を考えるだけでは解決策は見つからない!  経済思想史からの教訓とは?」 (現代ビジネス|講談社 2022年11月14日)
https://gendai.media/articles/-/101636

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