Commerce and Strangers in Adam Smith
192ページ
英語
2018年
978-981-10-9013-4
Springer Singapore
本書籍は、経済学の大成者として知られるアダム・スミスが、グローバル化をどう捉えたかを考察するためのものである。
スミスは18世紀に生きた人物で、グローバル化の速度・規模とも今日とは異なっている。スミスの生きたスコットランドは、未だ農業中心の社会であって、しかも、産業革命の成果もまだ社会に波及している訳ではなかった。にもかかわらず、グローバル化の波は着実にヨーロッパにもスコットランドにも及んでいた。ヨーロッパの商業・海外貿易網は、ほぼ世界各地域を網羅していた。さまざまな物品が世界中とやりとりされた。貿易・宣教に伴って、非ヨーロッパ世界の情報を伝える旅行記も多数執筆され、スミスを含むヨーロッパの人々の強い影響を与えた。そのことが、スミスの道徳・政治・経済思想にどのような影響を与えたのかについては、これまであまり顧みられてこなかった。そこで、本書は、多様な一次文献・二次文献を駆使しつつ、スミスにおいて、どのようにグローバル化が捉えられたのかを解明した。スミスは、未だグローバル化が完全とは程遠い時代に生き、グローバル化されざる地域をもよく知っていたことが、かえって、多様な地域を比較する巨視的視野をスミスに与えることとなった。
具体的には、本書は、スミスの生きた時代、スミスの道徳、政治、経済の多岐にわたり、グローバル化をスミスがどう捉えたかに迫った。
まず、第2章では、スミスの生きた啓蒙の時代に、世界各国との交流を啓蒙思想家がどう捉えたのか、それにスミスはどう影響されたのかを論じた。
第3章と第4章では、それぞれ、スミスの道徳と政治思想を扱った。異邦人という視野はスミスにとって人間関係を捉える上で根源的なものであった。また、それに基づきつつ、具体的な人間関係の場である政治の空間において、スミスが世界との交流をどう捉えたのかを論じた。第3章では、スミス道徳思想をstrangersというタームを軸に見ることで、公平な観察者の論理的根拠を考察した。第4章では、スミスの政治思想が、歴史を通じた制度の進化という発想に基礎付けられていることを示した。
続く、第5章から8章までは、スミスの経済思想を論じた。世界各国との交流の視点は、スミスの経済論に大きな影響を与えたことを論じた。第5章では、経済行動の規則性をスミスがどう捉えたかを示した。第6章では、貨幣、第7章では、市場、第8章では、国際貿易を取り上げた。
(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 准教授 野原 慎司 / 2019)
本の目次
Chap. II Travel literature and the Enlightenment world
Chap. III Fellows and strangers in The Theory of Moral Sentiments
Chap. IV Adam Smith's Historical Politics
Chap. V Adam Smith on regularity and irregularity in sentiments: morality and prudence
Chap. VI Adam Smith on money and the impact of encountering strangers
Chap. VII Adam Smith on markets
Chap. VIII Encountering the world: the model of international Trade
Conclusion