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白い表紙の上部から黄色と黄緑のグラデーション模様

書籍名

企業統治の法と経済 比較制度分析の視点で見るガバナンス

著者名

田中 亘 (編) 、中林 真幸 (編)

判型など

416ページ、A5判、並製

言語

日本語

発行年月日

2015年3月30日

ISBN コード

978-4-641-16454-3

出版社

有斐閣

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企業統治の法と経済

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本書は、企業統治 (コーポレート・ガバナンス) を、「完備な契約を締結できないという制約下において、企業を取り巻くさまざまな利害関係者の厚生を増進するために設けられる誘因設計やリスク分担の仕組み」と定義した上で、日本の経験に焦点を合わせて、その歴史的な展開を分析し、かつ、今後の展望を探るものである。
 
企業統治については、すでに様々な視点に基づく多様な業績が公にされているが、その中でも本書は、多様なバックグラウンドを持つ研究者が、契約理論および比較制度分析という基本的な分析枠組みを共有しつつ、理論と実証の両面から、企業統治の問題にアプローチしている点に、特色がある。
 
長期の関係を基本とする企業においては、将来の様々な状況に応じて当事者がとるべき行動を、全て契約に書き切ることは不可能である。そのような、完備な契約が書けないという制約下にあって、企業を取り巻く利害関係者の厚生をなるべく増進させるような、いわば次善解としての仕組みが、企業統治である。そのような次善解としての企業統治のあり方は、地域や時代によって異なる経済的・社会的環境に応じて、多様な形をとることであろう。本書では、比較制度分析の枠組みを用いて、環境の変化に応じて変遷していく企業統治の姿を描き出そうと試みている。
 
本書は、序章の他、4部15章で構成されている。
 
第1部 (企業統治の基礎理論) では、本書の分析の理論的枠組みをなしている企業統治の基礎理論、特に契約理論に関する研究を紹介するとともに、契約の不完備を補充するものとしての法制度の存在意義と問題点についても検討する。
 
第2部 (戦前日本の企業統治) では、戦前期の日本の企業統治についての歴史研究を収める。戦前期の日本では、大株主が社外役員として企業経営に強い発言力を有するなど、戦後の日本とは大きく異なる企業統治が存在したことはすでに指摘されているが、その実体についてはなお検証を要する点が少なくない。第2部では、ケース・スタディや計量分析を用いて、多様な観点からその実相を明らかにする。
 
第3部 (「日本型経営」のゆくえ) は、安定株式保有、終身雇用、内部者中心の取締役会といった、戦後日本の企業統治を構成する諸制度が、近年 (1990年頃以降) の環境変化に伴い変化してきたか否か、また、今後どのように変化すると予想されるかに関する研究を収める。興味深いのは、第3部に所収された研究が、いずれも、企業統治の諸制度の強い頑健性を指摘する一方で、根底においては変化の潮流が存在することを捉えている点である。
 
最後に第4部 (企業統治改革の展望) は、企業統治に関する近時の制度改正 (特に、2000年代以降の会社法および労働法制の改正) を分析するとともに、今後の企業統治のあり方を展望している。
 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 教授 田中 亘 / 2017)

本の目次

 序 章 企業統治を分析する視点 (田中 亘)
第1部 企業統治の基礎理論
 第1章 雇用者学習と企業特殊的人的資本 (加藤 晋)
 第2章 中間管理職の役割と人事評価システム (大湾秀雄)
 第3章 継続的契約関係と法 (石川博康)
 第4章 ガバナンスの自律と他律 (佐々木彈)
第2部 戦前日本の企業統治
 第5章 企業の売買と境界 (中村尚史)
 第6章 近代日本における株主総会と取締役会 (結城武延)
 第7章 黎明期の企業統治と資本市場 (中林真幸)
第3部 「日本型」経営のゆくえ
 第8章 不安定なシステムへの局所的な対応策としての企業統治 (ジョン・ブカナン)[田中 亘 訳]
 第9章 ブルドックは企業価値の番犬か (胥 鵬)
 第10章 機関投資家はコーポレート・ガバナンスをどのように見ているか (田中 亘)
 第11章 1990年代以降の日本型雇用 (小野 浩)
第4部 企業統治改革の展望
 第12章 非業務執行役員の役割と会社法 (武井一浩)
 第13章 会社法改正と企業統治 (加藤貴仁)
 第14章 労働法の動態と企業統治の方向性 (水町勇一郎)
 第15章 新しいコーポレート・ガバナンスの可能性 (柳川範之)

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