本書は、会社法全般について、著者の理解しているところを解説した概説書である。
本書の記述に当たってとりわけ留意したのは、会社法の諸制度の趣旨や内容について、初学者にも十分に理解できるような説明を心がけたことである。その目的のために必要な限度で、通常の会社法の概説書では説明されないような内容に踏み込んで解説した箇所もある。
たとえば、株式会社の計算について扱った第5章では、(複式) 簿記の基本的なルールについて、設例を交えながら解説した。計算に関する会社法の諸規定は、簿記のルールが前提になっており、簿記についての一定の知識がなければ、その趣旨、内容を理解することはできないと考えたためである。
また、現代の会社を取り巻く社会的、経済的動向についても、必要に応じ、主としてコラムの中で説明するようにした。たとえば、上場会社における株主構成や取締役会の構成、および、近年におけるそれらの変化といったことである。会社法制の趣旨を理解するうえでは、その規律対象である会社の実態についての一定の知識が欠かせないためである。
さらに、本書は、会社法制に関係のある社会科学 (主として経済学) の諸概念 (株主の集合行為問題や経営者のエージェンシー問題、株主有限責任により生じるモラル・ハザードなど) についても、制度趣旨の理解に必要な限度で、説明を加えている。こうした社会科学の概念は、会社を取り巻く利害状況を明晰に分析するうえで有益であり、法律家・法学者にとっても必要な知見であると考えるためである。
また、複数の章の主題に関連を持つような特に重要な概念については、重複をいとわず何度も説明するとともに、関連する箇所をクロスレファレンス (相互参照) するようにした。さらに、制度の概要を視覚的に理解できるよう、図表も多く使用している。
以上のような工夫により、本書は、会社法を学ぶのは初めての学部学生や法科大学院の未修者も、通読して理解できるものになっていると考える。同時に、本書は、会社法の重要論点について、判例を中心として広く取り上げたうえ、特に難解な論点については、主としてコラムの中で詳しい論述を行うほか、関心のある読者向けに参考文献を紹介している。これにより、本書は、法科大学院の既修者等、会社法の学習経験のある者が、より高レベルの知識・理解を得るために適しているほか、会社法務に従事する実務家や会社法の研究者にも、手に取る価値のあるものになっていると考える。
(紹介文執筆者: 社会科学研究所 教授 田中 亘 / 2018)
本の目次
第1章 序説――会社と会社法
第2章 会社法総則
第2編 株式会社
第3章 株式と株主
第4章 機関
第5章 計算
第6章 資金調達
第7章 設立
第8章 定款の変更
第9章 買収・結合・再編
第10章 解散・清算・倒産
第3編 持分会社・国際会社法
第11章 持分会社・組織変更
第12章 外国会社・国際会社法