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書籍名

会社・株主間契約の理論と実務 合弁事業・資本提携・スタートアップ投資

著者名

田中 亘、 森・濱田松本法律事務所 (編)

判型など

476ページ、A5判、並製カバー付

言語

日本語

発行年月日

2021年3月

ISBN コード

978-4-641-13845-2

出版社

有斐閣

出版社URL

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会社・株主間契約の理論と実務

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本書は、株式会社における合意によるアレンジメントに関する法律問題について、会社法、民法および民事訴訟法を専門とする法学研究者と、森・濱田法律事務所においてそうしたアレンジメントに関する法律事務に従事する弁護士が行った共同研究の成果物である。
 
日本法上、共同事業のために用いられるヴィークル(媒体、事業体)には様々なものがあるが、株式会社が最もよく用いられるヴィークルであることに異論はなかろう。株式会社は、スタートアップ(ベンチャー)企業や合弁企業のような非公開企業から、広く一般投資家から資金を募って大規模な事業を行う公開企業まで、共同事業のヴィークルとして最も広く利用されている。
 
株式会社が広く利用される要因の一つとして、その組織や運営、管理に関する原則(デフォルト・ルール)が、詳細な法令またはそれを解釈する判例の形で整備されていることが挙げられよう。複雑な共同事業を行うに際し、出資者や経営者等の関係者の権利義務を全て契約で定めることは容易でない。株式会社をヴィークルとすることにより、会社法のデフォルト・ルールを利用でき、契約で逐一必要な定めをするコストを削減できる。
 
もっとも、株式会社に関する法令の規律は、個別具体的な企業のニーズにうまく対応するとは限らない。例えば、株式会社の基本原則の一つである資本多数決原則は、株主の出資割合に比例して、会社経営に対するコントロール権とりわけ議決権を配分する仕組みである。しかし、例えば合弁事業においては、調達・販売や研究開発といった出資以外の貢献をするインセンティブを関係者に与えるため、出資割合の少ない株主のコントロール権をより強化することが合理的な場合があり得よう。
 
そこで、共同事業の当事者としては、株式会社に関する会社法のデフォルト・ルールの利用により、契約締結の費用削減や予測可能性の向上といったメリットを享受しつつも、適宜、自分たちのニーズに合わせて、会社のガバナンスや株式の取扱い等に関して合意によるアレンジメントを行い、会社法のルールを修正することが、合理的な対応となりうる。そうした合意によるアレンジメントは、会社の定款条項の形で定められる場合もあるが、会社法の強行法規に反することなどの理由から、定款には規定されず、株主間の契約または会社と株主間の契約によって行われる場合もあろう。また、株主全員がアレンジメントに同意する場合もあれば、一部の株主のみが同意している場合もあろう。本書は、このような、株式会社における合意による各種のアレンジメントについて、その合意の有効性や法的効力、および合意内容を裁判で強制する方法等の法律問題について、詳しい検討を行っている。
 
本書で検討対象とするアレンジメントの多くは、合弁会社やスタートアップ企業などの非上場会社で行われるものであり、研究者がその実態を知ることは必ずしも容易でない。そこで、本書の執筆に先立ち、弁護士と研究者による研究会を開催した。研究会では、まず弁護士メンバーが、アレンジメントが利用される典型的な場面として、合弁事業、資本業務提携、及びスタートアップ投資という3つの類型を抽出し、それぞれにおいて通常用いられるアレンジメントの内容について解説するとともに、その有効性や効力等に関連して生じる法律上の論点を指摘した(本書第1部「実務編」に相当)。次に、研究者メンバーが、それらの法律上の論点について、現行法の解釈論、問題によっては立法論の検討を行った(本書第2部「理論編」に相当)。そして、研究会において、メンバー間で忌憚のない議論を行った。
 
こうした共同研究を踏まえて展開される本書の分析は、各種のアレンジメントについての実態を踏まえた、説得力のあるものになっていると考える。
 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 教授 田中 亘 / 2021)

本の目次

序 章 株式会社における当事者の合意によるアレンジメントの法律問題〔田中 亘〕

第1編 実務編
 第1章 合弁事業における会社・株主間契約〔塩田尚也=松下 憲=近澤 諒=宮原拓郎=川本 健〕
 第2章 上場会社における会社・株主間契約〔石綿 学=内田修平=福田 剛=芝村佳奈〕
 第3章 スタートアップ投資(ベンチャー投資)〔棚橋 元=戸嶋浩二=辻 純一=保坂泰貴〕

第2編 理論編
 第4章 ガバナンスに関する合意〔松中 学〕
 第5章 法定決議事項について第三者を介在させる合意〔森田 果〕
 第6章 株式に関する合意〔飯田秀総〕
 第7章 派遣取締役の法的地位〔後藤 元〕
 第8章 上場会社におけるガバナンスに関する合意〔加藤貴仁〕
 第9章 上場会社における株式に関する合意〔白井正和〕
 第10章 スタートアップ投資契約に特徴的な定め〔松尾健一〕
 第11章 会社・株主間契約:民法学の視点から──各種の契約条項とその内容の実現〔吉政知広〕
 第12章 会社・株主間契約──民事手続法学の視点から〔垣内秀介〕
 

関連情報

書籍紹介:
編集担当者から (『法学教室』No.487 2021年4月)
http://www.yuhikaku.co.jp/static_files/BookInfo202104-13845.pdf

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