本書は、会社法・金融商品取引法を専門とする法学者、M&Aやファイナンスを専門とする経済学者、および、森・濱田松本法律事務所でM&Aの法務に従事する弁護士による共同研究の成果物である。研究の目的は、公開買付けについて大規模な改正を行った平成18年証券取引法改正後における日本の公開買付けの実態を明らかにするとともに、望ましい公開買付法制のあり方について、解釈論のみならず立法論も含めた検討を行うことにある。
本書は、法学、経済学および実務という3つの視点から、公開買付けにアプローチしている点に特長がある。また、レコフ社のM&Aデータベースを初めとする市販のデータベースに加え、森・濱田松本法律事務所が独自に構築した公開買付データベースにより、わが国の公開買付けの実態について詳細な実証研究を行い、その結果を踏まえて法制度に関する提言をしている点も、本書の大きな特色である。例えば、(1) 公開買付けに際して公開買付後にキャッシュ・アウトを行う予定であることを開示すると、公開買付けの応募率が顕著に (統計学上も有意に) 上昇すること、および、(2) 公開買付け後キャッシュ・アウトまでの期間が比較的長期に及んでいるという実証結果を踏まえて、わが国の公開買付けには強圧性の問題 (公開買付けに応じない場合に、応じた場合と比べて不利益な取扱いを受ける恐れがあるために、株主が公開買付けに応じるような圧力を受けること) が存在する可能性を指摘し、その問題の解決のため、公開買付期間の強制延長制度 (公開買付成立が確定してから、応募をしなかった株主に応募の機会を与える制度)の導入を提言している (第2章・第8章)。
本書は、序章の他、第1部「制度編」(1~6章) と、第2部「実証編」(7~11章)、ならびに、制度編の各章末尾および実証編の末尾に付されたコメントからなる。制度編の執筆者は、実証編の研究成果も踏まえて解釈論ないし立法論を行っており、両編の内容は有機的に関連している。
平成18年証券取引法改正から約10年が経過し、この間の実務の進展および学説・裁判例の蓄積に基づいて、公開買付制度全般について分析、評価を行い、必要に応じて、法改正を含めた制度の改善、見直しを検討すべき時期に来ている。本書は、そのような見直しの視点を与えると同時に、制度論の前提となる重要な実証データを提供するものである。
本書は、第11回M&Aフォーラム賞正賞『RECOF賞』受賞作である。
(紹介文執筆者: 社会科学研究所 教授 田中 亘 / 2018)
本の目次
第1部 制度編
第1章 買付価格の均一性ルールについて (石綿 学=久保田修平=松下 憲=高田洋輔)
第1章へのコメント (飯田秀総)
第2章 公開買付けに関する行為規制 (飯田秀総)
第2章へのコメント (内田修平=越智晋平)
第3章 公開買付前後の第三者割当をめぐる法的問題の検討 (松中 学)
第3章へのコメント (戸島浩二=徳田安崇)
第4章 現状を踏まえた利益相反回避措置に関する検討 (白井正和)
第4章へのコメント (石綿 学=福田 剛)
第5章 MBOと親会社による子会社の非公開化の規制は同一であるべきか? (加藤貴仁)
第5章へのコメント (石綿 学=廣田雅亮)
第6章 実質的特別関係者 (田中 亘)
第6章へのコメント (篠原倫太郎=高橋 悠)
第2部 実証編
第7章 公開買付けの当事者・価格その他の公開買付けの条件 (森田 果)
第8章 公開買付けにおける支配プレミアムと株主の応募行動 (井上光太郎=小澤宏貴)
第9章 公開買付けに付随する取引――公開買付けに付随する第三者割当て (松中 学)
第10章 利益相反取引における利益相反回避措置の現状 (白井正和)
第11章 株価と売買高から見た情報開示、応募手続と支配権市場 (胥 鵬)
第2部実証編へのコメント (久保田修平=松下 憲=根橋弘之)
関連情報
『証券アナリストジャーナル』55巻6号 (2017年6月号) (評者 大崎貞和氏 <野村総合研究所>)
『ビジネス法務』2017年5月号 (評者 浅妻 敬弁護士 <長島・大野・常松法律事務所>)
受賞:
第11回M&Aフォーラム賞 (RECOF賞)
http://www.maforum.jp/thesis/11th/11th.html