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白い表紙の真ん中に青い四角模様のイラスト

書籍名

世界経済危機とその後の世界

判型など

264ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2016年3月25日

ISBN コード

978-4-8188-2412-6

出版社

日本経済評論社

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世界経済危機とその後の世界

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2016年に入って世界同時株安が進行し、世界経済の不安定性は再び高まりつつある。この世界同時株安は、先進諸国の異次元緩和政策が新たなるグローバル流動性の拡大をもたらし、その結果生み出されたバブルが崩壊したことを意味する。世界経済危機対策が次なるバブルを生み出し、新しい形の世界経済危機が醸成されている。
 
2007~8年世界経済危機の背景となった資本主義の在り方が現在も基本的には変わっていないという問題意識の下、危機の背景、危機の発生メカニズム、危機後の世界について様々な角度から解明するという共同研究の企画が立てられた。その研究成果が本書である。
 
序章では、世界経済・金融危機の背景には「株主資本主義の台頭」があることを論じている。「高株価経営」は「雇用不安」の長期化を生み出し、「金融緩和政策の長期化」を導く。この「金融緩和」が「規制緩和」と結びつくと金融バブルが醸成される。こうした傾向は危機後の世界にも存在している。
 
第1章では、「住宅金融の証券化」の仕組みを「信用創造」という観点から論じている。「住宅抵当債権の証券化」は、支払準備金や自己資本を充分に積まないまま信用創造が行なわれる仕組みであった。だが、金融危機が発生すると銀行は準備金不足、自己資本不足に直面し、「最後の貸し手」の信用創造と公的資本注入に依存することになる。
 
第2章では、経済・金融危機の背景にある「高株価経営」について論じている。取締役会が経営陣を厳しくチェックするガバナンス構造はうまく機能せず、エージェンシー理論が推奨したストックオプション制度の採用は経営者たちに高株価経営のインセンティブを与えた。そして、経営コンサルタントは経営者たちを短期的な利益を追求する企業行動に仕向けたのである。
 
第3章では、金融危機の背景をファンド資本主義化の視角から論じている。短期利益を追求するファンドマネージャーの行動様式が金融危機を生み出す要因であり、商業銀行や投資銀行もファンドマネージャー化したことが問題だったのである。
 
第4章では、世界金融危機後のドイツ銀行業界が直面する諸問題を論じている。ドイツの銀行のグローバルな事業展開を図った危険なビジネスモデルは破綻した。そして、付加価値の高い新規事業の創出と事業構造の革新に失敗している。ドイツの銀行は不動産バブルに便乗するなど再び危険なビジネスに走り、次の危機を発生させる恐れを否定できない。
 
第5章では、金融バブルとその崩壊をめぐるBIS viewとFed viewの対立を論じている。ボリオらのBIS viewは、実物資産には制約されずに預金設定によって行われる信用創造の意義を正しく強調した。預金設定あるいは資産価格上昇と結び付けられる古典的な信用創造の仕組みが、金融業務の細分化によって媒介関係が複雑化した現代の金融経済においてどのように貫徹しているのか、について具体的に検討している。
 

(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 教授 柴田 德太郎 / 2016)

本の目次

序章 世界経済危機の背景とその後の世界 柴田德太郞
第1章 住宅金融の証券化と信用創造 柴田德太郞、岩田佳久
第2章 コーポレートガバナンスの変質と高株価経営 中川淳平
第3章 アメリカのファンド資本主義化と金融危機 横川太郎
第4章 金融危機後におけるドイツの銀行業界の諸問題 石塚史樹
第5章 グローバル「金融化」の時代の金融バブルをめぐるBIS viewとFed view 岩田佳久
終章 総括と展望 柴田德太郞

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