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書籍名

Cambridge Studies in International and Comparative Law The International Law of Sovereign Debt Dispute Settlement

著者名

Kei Nakajima

判型など

349ページ

言語

英語

発行年月日

2022年

ISBN コード

9781009250023

出版社

Cambridge University Press

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学内図書館貸出状況(OPAC)

The International Law of Sovereign Debt Dispute Settlement

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本書が扱うソブリン債とは、国家が私人投資家向けに発行する債券であり、多くの場合に外国法に準拠し外貨建てで発行される。一般的には高い信用力を持つ金融商品と考えられているものの、歴史的に見れば、金融危機等に伴ってソブリン債のデフォルト (債務不履行) が宣言されることは決して珍しいことではない。アルゼンチンやギリシャの債務危機が有名であるほか、今日ではCovid-19パンデミックのいわば後遺症として、発展途上国や新興市場国の多くが財政難に直面し、対外債務についてデフォルトが懸念されている。国家が対外債務につき不履行に陥ると、金融市場の信頼を失い再度借入れを行うことが難しくなるばかりか、当該国に暮らす国民の社会経済的権利が脅かされる。また、今日のグローバル金融においては、一国において発生した金融不安は国境を越えて急速に伝播していく。

こうした状況であるにもかかわらず、ソブリン・デフォルトに対処するための国際的なメカニズムは現在のところ存在しない。対外債務の不履行に際して国家取りうる唯一手段はソブリン債務再編であり、自らの支払い能力の範囲内で、可能な限り多くの債権者にとって受け入れられるであろう内容の新規発行債券と旧債券とを交換することによる。しかし、債権者の同意に依存したこうした手法のみに依拠しなければならない現状においては、一部の債権者において、旧債の額面全額および利子の支払いを訴訟や仲裁を通じて求める「抜け駆け (holdout)」戦略を採る余地を認めることとなっている。「抜け駆け」訴訟ないし仲裁とはヘッジファンド等が採用する投機的な投資戦略の一部であり、2001年にデフォルトに陥ったアルゼンチンの暴落債券を買いましたヘッジファンドが、米国裁判所において一定の差止措置を得た結果、アルゼンチンは債務再編したはずの債券の償還を行うことができなくなり、2014年に再度デフォルトに陥ることとなった。

本書は、そうしたソブリン債をめぐる紛争処理過程における国際法の規律の在り方を分析し構想するものである。多くの論者は、ソブリン債務再編を阻害することになりかねない訴訟や仲裁の影響を限定する方向で議論を展開するところ、本書は、訴訟や仲裁がソブリン債務再編において果たしうる一定の規制的な機能 (regulatory functions) を肯定的に評価し、制度構想の一部として取り入れようとする。その骨子は、まずソブリン・デフォルトの事後処理について債務国自身が第一義的な責任を負い、説明責任を負うガバナンスの機関であると捉えた上で、次いで国内裁判所や投資仲裁廷が、債務国の意思決定に過度に介入することのない敬譲的な審査を行うことで二次的なガバナンスを提供する、というものである。ソブリン債務再編を、国家の自己保存としてのみならず、グローバルな関心事として把握される金融危機への対処策であると構成することで、国家と事後審査機関である裁判所や仲裁廷の規制権限配分を通じた統治のメカニズムを観念しようという試みである。
 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 准教授 中島 啓 / 2023)

本の目次

Introduction
1. Setting the scene
2. The emerging framework for sovereign debt discourse
 
Part I. Regulation Through Contract and Litigation
3. Sovereign immunities and other statutory mechanisms regulating holdout litigation
4. Collective action clauses (CACs): Contractual regulation of holdout litigation
5. The Pari Passu Clause: Regulating holdouts through injunctive relief
 
Part II. Regulation Through Treaty and Arbitration
6. Jurisdiction of arbitral tribunals over sovereign debt disputes
7. Admissibility of sovereign bond claims: Mass claims arbitration as a supplemental leverage over holdouts
8. Checks and balances at the stage of merits
 
Conclusion

関連情報

書籍紹介:
新刊著者訪問 第43回 (東京大学社会科学研究所 2023年5月25日)
https://jww.iss.u-tokyo.ac.jp/interview/publishment/nakajima_2023_05.html

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