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書籍名

現代日本の紛争過程と司法政策 民事紛争全国調査2016–2020

著者名

佐藤 岩夫、 阿部 昌樹、太田 勝造 (編著)

判型など

754ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2023年3月2日

ISBN コード

978-4-13-036158-3

出版社

東京大学出版会

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現代日本の紛争過程と司法政策

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人びとの日常生活における紛争の経験およびそれへの対応行動を実証的に明らかにする研究は、世界各国で活発に行われており、グローバルな法社会学研究の中心テーマの一つとなっている。本書は、現代日本社会における紛争過程の全体像を明らかにする目的で、全国の法社会学の研究者グループが行った大規模社会調査プロジェクト「民事紛争全国調査2016-2020」の成果である。
 
本書は、具体的には、次の3つの課題に取り組んでいる。第1に、全国的な大規模社会調査 (2つのサーベイ調査およびインタビュー調査) の結果に基づき、人びとの日常生活上の紛争経験およびそれへの対応行動の最新の状況を実証的に明らかにすること、第2に、超高齢社会化や家族・雇用関係の変容など、現代日本のマクロな社会変動と人びとの日常生活における紛争経験との関わりを解明すること、そして第3に、この間の司法制度改革の進展が、人びとの紛争経験およびそれへの対応行動にもたらした影響を明らかにし、司法制度改革の効果を経験的データに基づき検証することである。
 
本書には合計38本の論文を収録している。冒頭の第1章では、本書の母体となった「民事紛争全国調査2016-2020」プロジェクトの概要、とくに、その中心をなす3つの調査の内容を説明して、本書全体への導入を行っている。それに続く37本の論文は、4つの部に分けられている。第1部には、紛争の発生から、専門の助言機関や法専門家の助言・支援を経て、その終結に至る、紛争の一連のプロセスに関する最新の知見を明らかにする論文を収めている。第2部には、訴訟当事者の属性、訴訟をめぐる訴訟当事者の期待と評価、判決と和解に対する訴訟当事者の評価の比較等を行う論文を収めている。第3部には、家族・雇用関係の変化、超高齢社会化、ジェンダーなど現代日本のマクロな社会変動と人びとの日常生活における紛争経験との関係を扱う論文を収めている。第4部では、紛争経験を紛争当事者の視点から問い直す論文を収めている。
 
本書の特徴としては、第1に、現代日本社会における紛争過程の全体像を社会調査データに基づき実証的に明らかにしていること、第2に、その際、大規模サーベイ調査のデータに基づく定量的研究アプローチとインタビュー調査のデータに基づく定性的研究アプローチとの結合を図っていること、第3に、この分野の世界的な研究動向を踏まえ、グローバルな法社会学研究への理論的・実証的貢献を自覚的にめざしたことがある。
 
全750頁に及ぶ大部な専門書であるが、研究者・法曹実務家・司法政策関係者をはじめ、現代日本の法と社会の在り方に関心を持つ多くの人にご覧いただければ幸いである。
 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 名誉教授 佐藤 岩夫 / 2023)

本の目次

第1章 本書の目的と方法:「民事紛争全国調査2016-2020」プロジェクトの概要(佐藤岩夫・高橋 裕・飯田 高)
 
  第1部 紛争の展開と専門機関への相談
 
紛争の展開過程
第2章 紛争ピラミッドの12年:接触と紛争を発生させるものは何か(杉野 勇)
第3章 トラブル経験の特徴と専門機関相談の規定要因(佐藤岩夫) 
第4章 相談行動・情報探索行動と法的ソーシャルサポート(高橋 裕)
 
専門機関への相談行動
第5章 トラブルに際して誰に相談するのか:情報探索行動の傾向とパターン(常松 淳)
第6章 弁護士相談の規定要因(濱野 亮)
第7章 弁護士に対する訴訟当事者の評価:10年で評価はどう変わったか(ダニエル・H・フット)
第8章 法テラス利用の阻害要因(橋場典子)
第9章 専門家・専門機関に対する利用者の評価(阿部昌樹)
 
紛争の終結
第10章 専門機関への相談とトラブル終結(鹿又伸夫)
第11章 トラブルの終結(阿部昌樹)
 
  第2部 訴訟利用と当事者の評価
 
訴訟当事者の属性
第12章 本人訴訟の分析(長谷川貴陽史)
第13章 同一事件の当事者の訴訟への態度:事件当事者は同じ夢を見るか(木下麻奈子)
第14章 相手方属性とトラブル経験・訴訟経験(平田彩子)
第15章 民事訴訟における訴訟当事者と弁護士の関係性:2007年調査と2018年調査の比較(太田勝造)
 
訴訟をめぐる当事者の期待と手続評価
第16章 裁判にかかる費用や時間の認識と裁判利用行動意図の関係:構造方程式モデリングによる未経験者と経験者の比較(森 大輔)
第17章 訴訟利用の総合的満足度の規定要因(齋藤宙治)
第18章 訴訟利用者の裁判に対する意見と期待:自由回答データのテキスト分析を中心に(佐藤伸彦)
 
和解の選択と効果
第19章 訴訟上の和解に関する当事者および弁護士の意識(佐伯昌彦)
第20章 和解による解決と当事者の訴訟手続評価:2007年民事訴訟当事者調査との比較を中心に(垣内秀介)
第21章 満足度、主観的有利さ、結果の履行、再利用の意向に対する和解成立の効果(今在慶一朗)
 
  第3部 現代日本の社会変動と紛争の諸相
 
家族・職場の変化と紛争
第22章 超高齢社会における「家族問題」とその当事者(田巻帝子)
第23章 家族に関する問題における負担感の意識と対処行動(吉武理大)
第24章 職場や働き方をめぐる個別労働紛争の男女比較分析(黒川すみれ)
第25章 過払金返還請求訴訟の特徴(飯 考行)
 
超高齢社会における紛争特性
第26章 高齢者のトラブル経験と対応行動(土屋明広)
第27章 高齢者のトラブル対応への家族による関わりとその関連要因(山口 絢)
第28章 一般人からみた民事紛争における法利用:高齢消費者被害シナリオを用いたサーベイ実験から(前田智彦)
第29章 高齢者にとっての民事裁判(飯田 高)
第30章 裁判に対する高齢者の満足を規定する要因:特に期待との関係で(藤田政博)
 
ジェンダー視点から見た紛争経験・訴訟経験
第31章 ジェンダーの視点から見たトラブル経験:司法アクセスと文化資本(石田京子)
第32章 トラブル経験とケアの在り処(南野佳代)
第33章 ジェンダーの視点から見た民事訴訟:2006年・2007年調査から変わったこと、変わらないこと(渡辺千原)
 
  第4部 紛争経験をめぐる当事者の語り
 
第34章 混濁する紛争経験の構築(仁木恒夫)
第35章 不本意な法的決定を受容する方法:相続をめぐるトラブルで民事訴訟の被告となった当事者の語りから(藤原信行)
第36章 近隣トラブルにおける「トラブル経験」と「相談行動」(山田恵子)
第37章 「トラブル」の自由記述のテキスト分析:誰が何をどのように記述するのか(菅野昌史)
第38章 「裁判への期待/懸念」はいかに語られたか?:司法経験に関する面接調査データの「質的研究」とその意義(北村隆憲)
 
むすび(佐藤岩夫・阿部昌樹・太田勝造)
 

関連情報

東京大学社会科学研究所 超高齢社会における紛争経験と司法政策プロジェクト
https://web.iss.u-tokyo.ac.jp/cjrp/

著者インタビュー:
新刊著者訪問 第42回 (東京大学社会科学研究科ホームページ 2022年11月28日)
https://jww.iss.u-tokyo.ac.jp/interview/publishment/sato_2022_08.html
 
著者コラム:
佐藤岩夫「法を『測ること』と『聴くこと』──『現代日本の紛争過程と司法政策』刊行に寄せて」 (『UP』610号16-22頁 2023年8月号)
https://www.utp.or.jp/book/b10033707.html
 

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