東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙、アウトサイダーアートのような植物らしきものの絵

書籍名

現場からみる障害者の雇用と就労 法と実務をつなぐ

著者名

長谷川 珠子、石﨑 由希子、永野 仁美、 飯田 高 (著)

判型など

390ページ、A5判、並製

言語

日本語

発行年月日

2021年4月1日

ISBN コード

978-4-335-35872-2

出版社

弘文堂

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現場からみる障害者の雇用と就労

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雇用や就労に関する法律は、人々の労働環境にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。この問いに対して、障害をもつ人たちの雇用や就労に焦点を合わせて実証的に取り組もうとするのが本書です。
 
障害者の雇用・就労に関する法律は、この20年の間に目まぐるしく変化してきました。障害者雇用施策で最も重要なのは、2013年の法改正です。この年には障害者雇用促進法が大幅に改正され、障害者差別が禁止されるとともに、合理的配慮の提供義務が導入されました。それと並行して、障害者の就労を支援する制度も整備されています (2005年に障害者自立支援法が制定され、就労移行支援や就労継続支援に関する仕組みが導入されました。障害者自立支援法は、2012年に障害者総合支援法に改称されています)。
 
では、以上の法改正は、障害者雇用・就労の現場にどんな影響を与えたのでしょうか。新たな法規制に直面した現場では障害者雇用・就労の実態はどう変わり、現場からはどういう要望が出ているのでしょうか。そして、将来的にはどのような障害者雇用・就労政策が望ましいでしょうか。
 
本書では、障害者雇用・就労を担っている人たちを対象とした調査を行い、それを基礎にして、今後の障害者雇用・就労政策について考察しています。具体的には、就労への困難度がより高い障害者が働いていると思われる、特例子会社・A型事業所・B型事業所に対して、質問票調査とインタビュー調査の両方を実施しました。現在の障害者雇用・就労の実態や実務を調査・分析し、そこから得られた知見をもとに、障害者雇用・就労に関して法が果たす役割や法政策のあり方について検討しています。
 
「法と実務をつなぐ」というサブタイトルは、このような視点から書かれた本書が法と実務を架橋するための一助となれるようにとの願いを反映しています。「法と実務をつなぐ」ことは、他の分野でもそうであるように、障害者雇用・就労の分野でも大切なことです。障害者雇用・就労の現場は、法が実現しようとする理念を受け止め、それを実践しようとします。しかし、法制度が現場における理念の追求の足枷になるケースもあるかもしれません。また、法の理念がうまく現場に浸透しない場合もあります。そこで、法制度の側でも、こうした点を受け止め、改善すべき点を検討することが必要になります。現場は、再度の検討を経て改正された法制度を踏まえて、自らの実践を再考することになるでしょう。法と実務との間のこのような相互作用は、障害者雇用・就労をより良いものとしていくために不可欠なものです。
 
本書はこうした視点のもとで執筆されました。雇用や就労のあり方は、社会を変えていくための重要な鍵のひとつと言えます。障害者雇用・就労の現場で働いている方々や研究者だけでなく、障害当事者、家族、行政担当者、特別支援学校等で働いている方、そして社会を変えることに関心をもつさまざまな人たちにも手にとっていただければと考えています。
 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 教授 飯田 高 / 2023)

本の目次

第1章 なぜ「現場からみる」のか?――研究の背景
 第1節 本書における研究の背景
 第2節 障害者雇用・福祉的就労政策のあゆみ
 第3節 現行制度
 
第2章 現場はどうなっているか?――実態調査の実施
 第1節 調査概要
 第2節 質問票調査の集計結果
 第3節 インタビュー調査
 第4節 現場の声――質問表調査およびインタビューから
 
第3章 会社・事業所のあり方のモデル分析
 第1節 多様な運営方針の可視化
 第2節 各スコアを用いた分析と類型化
 
第4章 法と法以外のものの役割――現場からみえること
 第1節 法制度の影響
 第2節 ネットワークの役割
 
第5章 法と実務をつなぐ雇用・就労政策
 第1節 各制度の役割と機能
 第2節 障害者雇用・就労法制の将来像

関連情報

書評:
米澤旦 評 (『日本労働研究雑誌』No. 740 2022年3月号)
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2022/02-03/index.html
 
書籍紹介:
『すべての人の社会』493号 2021年7月
https://www.jdnet.gr.jp/news/journal/2021/07.html
 
『DIO』No. 367 2021年6月1日
https://www.rengo-soken.or.jp/dio/2021/06/111050.html

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