東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

木村先生、小国先生の白黒写真

書籍名

「みんなの学校」をつくるために 特別支援教育を問い直す

著者名

木村 泰子、 小国 喜弘

判型など

192ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2019年4月19日

ISBN コード

9784098401970

出版社

小学館

出版社URL

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「みんなの学校」をつくるために

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いま、日本では、特別支援教育の対象とされ、「特別支援学校」や「特別支援学級」で「健常」な子どもたちとは別の空間で授業を受ける子どもたちが急増しています。そのような子どもの数は少子化にもかかわらず、この十年で二倍以上に増えています。障害者権利条約では、地域の普通学校で「共に学ぶ」生活を基本とすべきことが定められているにもかかわらず、です。特別支援教育の対象となっている子どもやその親の中には、地域の普通学級で、みなと一緒に学びたいと願っている人も少なくありません。
 
背景には、2007年度より全国学力学習状況調査が始まり、学校での学力向上がこれまで以上に熱心に取り組まれるようになる中で、一斉授業に馴染めない子どもが、安易に特別支援教育の対象にされているのではないかと危惧する専門家が次第に増えてきました。日本の学校教育では、障害についての医学的知識が浸透し、その子が障害特性を持っているから一斉授業を受けることができないのだと理解されてしまう傾向があります。でも、ゆったりとした授業なのか、規則・ルールで縛られた授業なのかでも、一緒に授業を受けることができるかできないかは本来違ってくるはずです。
 
そのような現状の中で、さらに危惧すべき事態は、大学の教職課程で、2019年度から、特別支援教育の総論が必修として設置されたことです。少し解説しますと、幼稚園・小学校・中学校・高校の教師になるためには、主として大学において教職課程を履修する必要があります。新たに必修となった特別支援教育の総論は、幼稚園から高校の教職課程に共通する科目として設定されています。現在、大学の教職課程では文部科学省が教えるべき内容を提示する作業が始まっており、特別支援教育総論については、障害種別ごとにその特性を理解すべきとして、医学的な知識に基づく障害理解の重要性が強調されています。教師になる人が、医学的な知識を叩き込まれて教壇に立つようになれば、目の前の子どもの持つ問題の背景を丁寧に探ることなく、その行動の現れだけで障害を疑ってしまうことが増えてしまうのではないか。
 
そのような危惧から、この本は、敢えて特別支援教育総論の裏テキストとして作成しました。ひとりひとりの子どもが落ち着けなかったり、他の子どもに乱暴をふるってしまうのは、その子の障害特性では必ずしもありません。教師は、まずその子の困り感の背後にあるものを丁寧に探っていく必要があります。その上で、一人一人の子どもの違いを尊重しながら、一緒に学びあう空間を作るには教師はどうしたらよいのかをワークショップ形式で考えていきました。ワークショップに参加したのは、2018年度に東京大学に在籍していた学部生・大学院生です。その中には、前期課程の学部生も含まれていました。一人一人の違いを尊重してみんなで学ぶという公立学校の使命を実現するためには何が必要なのか、本書を通して東大生の先輩たちが考えたことをたどりながら、皆さんにも一緒に考えていただきたいと思います。
 

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 教授、バリアフリー教育開発研究センター長 小国 喜弘 / 2019)

本の目次

序章 本書が目指す学び 木村泰子・小国喜弘
第一章 「みんなの学校」における「支援」とは 木村泰子
第二章 インクルーシブ教育って何だろう
 講座1 障害の個人モデルと社会モデル 星加良司
 講座2 インクルーシブ教育の指標 小国喜弘
 講座3 多様な困難を抱える子をどのように包摂するか 堀 正嗣
 コラム  特別講演 前川喜平 (元文部科学省事務次官)
第三章 合理的配慮って何だろう
 講座4 通級による指導及び自立活動とインクルーシブ教育 川上康則
 講座5 「みんなの学校」の合理的配慮 南都芳子
第四章 インクルーシブな社会をどう実現するか
 講座6 「応援型アプローチ」の重要性 川村敏明
第五章 「みんなの学校」の全体目標をつくろう 木村泰子
あとがき 小国喜弘・木村泰子
 

関連情報

映画:
みんなの学校
http://minna-movie.jp/intro.php
 
研修会:
「みんなの学校」をつくる校長研修 (教育開発研究所 2020年8月9日 / 2020年10月25日 / 2021年1月11日 / 2021年3月7日)
https://www.kyouiku-kaihatu.co.jp/minna
 
<緊急ウェブ集会>withコロナの時代に「みんなの学校」をどう作るのか (東京大学大学院教育学研究科バリアフリー教育研究開発センター主催 2020年6月6日)
https://select-type.com/ev/?ev=p12TLc4_ql4
 
インタビュー:
『「みんなの学校」をつくるために 特別支援教育を問い直す』 著者の小国喜弘氏に聞く (教育新聞 2019年4月26日)
https://www.kyobun.co.jp/comprehensive/s20190426/
 

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