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書籍名

司法の法社会学 [第I巻] 個人化するリスクと法的支援の可能性 [第II巻] 統治の中の司法の動態

著者名

佐藤 岩夫

判型など

[第I巻] 304ページ、[第II巻] 320ページ、A5変

言語

日本語

発行年月日

2022年8月31日

ISBN コード

[第I巻] 9784797286984
[第II巻] 9784797286991

出版社

信山社

出版社URL

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司法の法社会学 [第I巻] [第II巻]

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本書は、法の実証的・経験科学的研究を行う法社会学の視角から、現代日本の司法制度の実態、それが果たしている機能、現在直面している課題などを明らかにすることを試みた論集である。
 
本書は2巻で構成されている。第I巻には、日常のトラブルや紛争をめぐる人びとの経験や行動、それらトラブルや紛争の適切な解決のために設けられている各種制度(具体的には、総合法律支援制度、被災者法的支援制度、労働審判制度、消費者団体訴訟制度など)に関する研究を収録している。第II巻には、司法制度を統治システムの一部として捉える視点から違憲審査制度や司法制度改革を取り上げ、関連して、現代の弁護士を取り巻く環境の変化や、近代的司法統計制度の発展に関する研究を収録している。
 
本書の特徴の一つは、司法制度の機能や課題をマクロな現代社会の特徴との関係で捉えていることである。本書では、現代社会における「個人化」の進行に注目しているが、この現象は、個人の自由や多様性の拡大という積極的な側面の一方で、日常生活を送る際に不可避的に生じるリスクに対して、人びとが個人として対応することを余儀なくされるという両義性があり、このリスク負担への備えを (伝統的な集団への帰属ではなく) 社会として用意することが重要である。そのような「リスクの個人化」への社会の支援という角度から司法制度を考察したのが第I巻である。第II巻では、日本の社会・経済が直面するグローバル化や現代のガバナンス改革などの動きを念頭に、違憲審査制度や司法制度改革、変動期の弁護士などの問題を論じている。直接現代の日本を扱うものではないが、第II巻に収録した近代司法統計の発展に関する研究もまた、19世紀ヨーロッパにおける知と社会の新しい関係、統治のあり方の変容というマクロな関心が背景にある。
 
本書のもう一つの特徴は、こうした問題関心を基本に、それぞれの主題について、社会調査研究および比較法社会学研究の方法を用いて実証的な分析を積み重ねたことがある。社会調査研究としては、私自身が企画・実施の中心メンバーであった各種の大規模サーベイ調査のデータのほか、依頼を受けて協力した日本司法支援センター (法テラス) や日本弁護士連合会の調査のデータなども用いて分析を行っている。また、私は、かねてより、〈比較〉という方法が法の社会科学的研究にとってどのような意義を持ちうるかにも関心を持って研究を進めており、本書にはその成果もいかされている。それらの実証的分析を通じて、本書では、多くの重要な知見と、それを踏まえた今後の司法制度のあり方への示唆を示すことができたのではないかと考えている。
 
司法制度は、法律学の諸分野だけでなく、統治システムの一部という観点からは、政治学や行政学などとも深い関わりがある。また、現代社会における「個人化」の進行との関連性や、近年、法専門職が福祉と連携する「司法ソーシャルワーク」の実務が発展していることが示すように、社会学や社会福祉学の多様な分野とも広く関わっている。法の社会科学的研究の視角から司法制度を考察した本書が、広い分野の読者の関心を刺激することがあれば大変幸いでる。
 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 教授 佐藤 岩夫 / 2022)

本の目次

[第I巻]
『司法の法社会学I──個人化するリスクと法的支援の可能性』

序論 司法の法社会学──本書の内容と方法
 
I 市民のトラブル・紛争経験と相談行動
第1章 専門機関相談行動の規定要因
第2章 地域の法律問題と相談者ネットワーク──司法過疎地域調査の結果から
第3章 「法的ニーズ」概念の再構成
第4章 総合法律支援制度の意義と課題 (1) ──「リスクの個人化」と法的支援の重要性
第5章 総合法律支援制度の意義と課題 (2) ──2016年法改正をめぐって
 
II 被災者への法的支援の課題
第6章 「司法過疎」被災地と法的支援の課題
第7章 東日本大震災被災者への法的支援の効果と課題──法テラス被災者法的ニーズ調査の結果から
 
III 労働審判制度
第8章 利用者調査から見た労働審判制度の機能と課題
第9章 ADRの専門性──労働審判手続を素材として
第10章 労働審判制度と労働関係の法化
 
IV 集団的紛争と消費者団体訴訟
第11章 集団的紛争と法的処理
第12章 消費者団体訴訟の法形成機能

 
V 法社会学研究と社会調査データアーカイブ
第13章 法社会学研究とデータアーカイブ

 
[第II巻]
『司法の法社会学II──統治の中の司法の動態』

VI 違憲審査制の動態
第14章 違憲審査制と内閣法制局──比較法社会学的考察
第15章 内閣法制局と最高裁判所の現在──「統治=執政」の法的統制のゆくえ
第16章 「政治の司法化」とガバナンス
 
VII 司法制度改革への視点
第17章 裁判官の独立と法曹一元──戦後司法の歴史的文脈の中で考える
補論 [書評] J・M・ラムザイヤー & E・B・ラスムセン『司法の独立を測定する──日本の司法の政治経済学』
第18章 司法の〈統一性〉と〈非統一性〉──日独裁判所の司法観の比較
第19章 裁判官の「多様化・多元化」を支える「独立と自治」
第20章 「公共性の空間」と司法
第21章 政治的公論における〈司法の不在〉をめぐって
第22章 司法制度改革の意義と課題──司法制度改革審議会最終意見書をめぐって
 
VIII 変動期の弁護士
第23章 変動期の日本の弁護士
第24章 弁護士人口の拡大と依頼者層──世界の動向と日本
 
IX 司法統計
第25章 19世紀ヨーロッパと近代司法統計の発展
第26章  [翻訳] クリスチャン・ヴォルシュレーガー「民事訴訟の比較歴史分析──司法統計から見た日本の法文化」
 

関連情報

著者インタビュー:
新刊著者訪問 第42回 (東京大学社会科学研究科ホームページ 2022年11月28日)
https://jww.iss.u-tokyo.ac.jp/interview/publishment/sato_2022_08.html

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