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書籍名

国際法で世界がわかる ニュースを読み解く32講

著者名

森川 幸一、 森 肇志、 岩月 直樹、藤澤 厳、北村 朋史 (編)

判型など

360ページ、A5判、並製

言語

日本語

発行年月日

2016年12月22日

ISBN コード

978-4-00-022955-5

出版社

岩波書店

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書籍紹介ページ

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国際法で世界がわかる

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最近、「国際法」という言葉を見聞きすることが増えていないでしょうか?
 
実際、新聞やニュースなどで国際法が取り上げられることは、近年急増しています。とはいえ、残念ながら国際法は、社会人や学生にとって身近なものとは言えません。本書はそうしたギャップを埋めようとするものです。
 
本書の目次を見てください。ニュースなどで目にしたことのあるキーワードが並んでいるのではないでしょうか? ここ数年のニュースの中から、日本に関連し、私たちにとって身近なものを中心に選びました。ニュースやキーワードには覚えがある方も多いと思いますが、そうしたニュースと国際法とが結びつく人は少ないかもしれません。
 
この両者を結びつけることが本書の狙いです。現在世界で起こっている国際問題や、世界から日本に対して求められるようになってきていることなどは、国際法を知ると格段に理解しやすくなります。国際法というのは国際社会で一般的に受け入れられているスタンダードにほかなりません。したがって、国際法を知らないままだと、そうしたスタンダードを踏まえて問題を適切に捉え、考えることが難しくなってしまいます。
 
こうしたことは何となくわかっているという人も、国際法の教科書を手にとるところまではなかなかいかないのではないでしょうか。どうしたらそうした人たちにも国際法のものの見方や考え方について知ってもらうことができるだろうか。そのために専門的な知見をわかりやすく提供するためにはどうしたらよいだろうか。そう考えるなかから生まれたのが、本書です。
 
本書は、こうした問題意識にもとづいて、ここ数年のニュースの中から、日本と国際法とに密接に関わるものを取り上げ、それらの背景にある国際法に関わる問題を解説し、問題の解決や将来に向けて、なにをどのように考えていくことが重要なのかを示そうとするものです。そのことによって、国際法が私たち日本人にとって身近な存在になってきていることや、背景にある国際法を理解するとニュースが分かりやすくなることを実感していただき、国際法的なものの見方を感じてもらうこと、さらには身近なニュースを国際法的な視点から読み解き、語れるにようになっていただくことを目的としています。
 
そのため本書では、正確さを保ちつつ (執筆者は全員第一線で活躍する国際法学者です)、できるだけ分かりやすく書くよう心がけました。またいわゆる教科書的な構成はとっていません。本書は堅苦しい教科書ではなく知的な読み物です。どこからでも構いません。興味をもった項目から読んでみてください。
 
本書を通じ、国際関係における国際法の重要性を再認識し、国際法に関心を持っていただければ幸いです。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 森 肇志 / 2017)

本の目次

1. 環太平洋経済連携 (TPP) 協定は主権を目減りさせる?
  ——国際条約を結ぶ意義とその民主的統制
2. 日米防衛協力のための指針 (日米ガイドライン) は条約ではない?
  ──非拘束的な合意を結ぶ意義
3. イスラーム国は国か?
  ──自称「国家」と国際法上の「国家」
4. 沖縄が日本から独立するかもしれない?
  ──現在の国際社会における自決権の意義
5. 北朝鮮に対しては国際法を守らなくても良い?
  ──未承認国家の法的地位
6. 日本・中国・韓国がともに主張する「固有の領土」とは?
  ──領域紛争の解決基準としての領域権原
7. 中国政府船舶による尖閣周辺海域での航行は「領海侵犯」?
  ──領海における沿岸国の主権と外国船舶の無害通航権
8. 実効支配とはなにか? ——国家主権と実効支配の関係
9. 靖国神社参拝批判は内政干渉? ──不干渉原則と違法な干渉行為
10. 日本の裁判所で外国国家を訴える? ──外国国家に対する裁判権免除
11. 在日米軍には日本の法律は及ばない? ──外国軍の駐留に関する地位協定
12. 大使館は「治外法権」か? ──大使館・外交官に認められる外交特権・免除
13. 日本のサラリーマンが国際カルテル容疑で米国に処罰される?
  ──国家管轄権の域外適用
14. 犯罪者は逃げ得? ──逃亡犯罪人の引渡し
15. 日本は難民鎖国? ──難民の権利と難民認定制度
16. ヘイトスピーチも自由な表現のうち? ——差別の禁止と表現の自由をめぐる国際基準
17. 中国による南沙諸島の埋め立ては違法? ──海や環境に関する国際法の観点から
18. 大陸棚の延伸で領土が拡大する? ──大陸棚に対する主権的権利とその延伸
19. 中国による防空識別圏の一方的な設定は違法?
  ──防空識別圏と排他的経済水域及び公海上空における飛行の自由
20. 世界貿易機関 (WTO) とは何か? ──WTO体制による貿易の拡大
21. WTOは時代遅れ? ──グローバルなWTOとリージョナルなFTAとの関係
22. 外国からの投資が日本の公秩序を脅かす? ──外資規制と国際投資協定
23. 日本の捕鯨活動のなにが問題だったのか?
  ──「南極海捕鯨事件」国際司法裁判所判決からの教訓
24. 「ポスト京都議定書」交渉の場としてのCOP21とは?
  ──環境保護のための枠組条約体制
25. 竹島紛争は国際司法裁判所に持ち込めない?
  ──国際紛争の処理における国際裁判の役割 (1)
26. 国際裁判には従わなくてもよい? ──国際紛争の処理における国際裁判の役割 (2)
27. イラク「戦争」・対テロ「戦争」:戦争とは? ──国際法上の戦争と武力紛争
28. 自衛隊による「武器の使用」は「武力の行使」とは違う?
  ──国際法上禁止される「武力の行使」と憲法の制約
29. 集団的自衛権とは? ──平和安全法制と国際法上の集団的自衛権
30. 北朝鮮に対する経済「制裁」? ──経済制裁の意義と役割
31. 「侵略」の定義は存在しない? ──侵略行為の禁止と処罰をめぐる国際法の歴史と現在
32. 日本に求められる「戦後補償」とは?
  ──「慰安婦」問題における「法的責任」をめぐる難しさ
 

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