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赤い表紙

書籍名

シンガポールビジネス法のエッセンス

著者名

平野 温郎、 板持 研吾 (編集代表)、大塚 周平、岡本 直己、コー・アラン (編)、田岡 絵理子、脇田 将典、高橋 脩一

判型など

364ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2022年9月27日

ISBN コード

978-4-502-42881-4

出版社

中央経済社

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シンガポールビジネス法のエッセンス

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本書は、東京大学においてアジア法教育プログラムの一環として開講している外国語科目「Asian Business Law Seminar 1」において使用していた日本語の参考資料を大幅に改訂し、シンガポールビジネス法の概説書として書籍化したものである。
 
この科目は、アジアを拠点として活躍する弁護士や企業法務パーソンを志望する者を主な対象として、シンガポール法および同法を通じてコモン・ローのエッセンスを学ぶ機会を提供することを目的としている。言うまでもなく、国際企業法務の実務においては、イングランド法を母体とするコモン・ローを一通り理解しておくことは非常に重要である。なかんずくシンガポール法は、アジアを中心に国際的な企業法務の世界では取引契約の準拠法として多用されており、シンガポールでの国際裁判や国際仲裁もまた増えている。さらに、日本を始め海外企業によるシンガポールにおけるいわゆる地域統括拠点 (Regional Headquarters) の設立も増えており、我が国の実務家にとってはシンガポール法の基本的な理解がますます重要となっている。そこでこの授業では、ビジネスにおいて重要と考えられる法分野・課題を取り上げて、その概要や特徴を把握するとともに、ビジネスにおける留意点やリスクマネジメントの手法を探っていくことを目指しているところである。
 
しかし、広く日本の学生や社会人がシンガポール法を学ぼうとしても、日本語による概説書や体系書はないという状況であり、原書のみではハードルが高い。また、大手弁護士事務所などによる優れた実務解説は公にされているものの、基礎知識がない者がそれだけを読んでも後に生きる学びを得ることはできない。そこで、本書は実務に必要な基礎知識を獲得することを目標に、章立て・内容も基本的に上記授業の流れに沿って選択した。具体的には、シンガポール法を学ぶ意義やその特徴、全体像を示すイントロダクションに続き、契約法 (担当:立教大学 田岡絵理子准教授)、財産法・物権法 (担当:神戸大学 板持研吾准教授)、会社法 (担当:東北大学 脇田将典准教授)、ファイナンスと担保 (担当:板持准教授)、信認義務 (fiduciary duties) (担当:ナンヤン工科大学 アラン・コー [Alan Koh] 助教授)、不法行為法 (担当:専修大学 高橋脩一准教授)、紛争解決手続 (担当:ラジャ・タン [Rajah & Tann] 法律事務所 大塚周平パートナー弁護士) をカバーしているほか、実務コラム (主担当:御堂筋法律事務所 岡本直己パートナー弁護士) も随所に設けている。
 
本書の執筆者はいずれも気鋭の中堅・若手研究者、実務家である。決して全員がシンガポール法の専門家というわけではないが、いずれもコモン・ローないしシンガポール法に詳しい方々である。当初から一緒に執筆方針を考えて下さった岡本弁護士、筆者と共同で編集代表を担っていただいた板持准教授を中心に、主要なビジネス法のエッセンスに内容を絞りつつ、可能な限り理論面の記述にも配慮してアカデミックな議論と架橋するという方針を決めて作業を進めたが、それは決して平坦な道のりではなかった。編者全員で議論を重ね、執筆者の先生方にはたびたび原稿を見直していただいた。加えて、上記授業の講師の一人で日本語が堪能なコー助教授には、他の執筆者が書いた原稿を、シンガポールの文化や法の歴史、考え方にまで立ち返って丹念に読み通していただき、不足を補うとともに内容についても多くの示唆をいただいた。さらに、シンガポールにおける日本企業の事業展開を支援してこられ、豊富なご知見を持つ大塚弁護士、岡本弁護士からは、実務家の読者の視点を踏まえた多くの有益なご指摘をいただいた。結果として、筆者の知る限り、その論述の正確さや深さは比類なきレベルにあると言えるかと思う。とはいえ、300頁程度の分量に多くのテーマを盛り込んだため、どうしても概括的な記述にとどまっている面があることは否定できない。そのような限界はある本書であるが、読者には、シンガポールやコモン・ローに対する先入観を一旦脇に置いて、まず異国情緒を楽しむつもりで一読していただければと思う。そのうえで、日本法と比較してみるなどそれぞれの視点から再読し、適宜参考文献にも目を通して理解を深めることをお勧めする。
 
本書の刊行を何とか新学期に間に合わせたいと考え、執筆者の方々にはスピード重視で作業を進めていただき、時にはかなりのご無理をお願いすることもあった。執筆者の間では、読者からのフィードバックもいただき、さらにより良い内容にしていこうと申し合わせている。ご意見やお気づきのことがあれば、ぜひお寄せいただければ幸いである。
 
なお、本書の刊行にあたっては、昨今の厳しい予算的制約のある中で、東京大学 (アジア法教育プログラム) から出版助成を得ている。おかげさまで学生諸君にも手が届く価格設定とすることができた。深甚なる感謝とともにこの場を借りて付言しておきたい。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 平野 温郎 / 2023)

本の目次

第1章 イントロダクション
 1 アジアのリーガル・ハブ、シンガポール
 2 比較法の中のシンガポール法:英米法系としての特徴
 3 シンガポール法総論
 
第2章 契約法
 1 契約の成立過程
 2 契約の有効要件、内容の確定と有効性判断に関するルール
 3 契約の履行過程に関するルール
 
第3章 財産法・物権法
 1 基本概念・分類
 2 シンガポールの物的財産法
 3 シンガポールの人的財産法
 
第4章 会社法
 1 基本概念
 2 定款
 3 機関
 4 株式
 5 債権者保護
 
第5章 ファイナンスと担保
 1 導入
 2 物的担保の種類
 3 権利の優先劣後と会社登記
 4 企業の倒産処理手続制度
 
第6章 シンガポール法における信認義務
 1 序
 2 受認者とその義務
 3 信認義務違反に対する救済手段
 
第7章 不法行為法
 1 シンガポール不法行為法の枠組み:概要
 2 過失による不法行為:総論
 3 ビジネスに関連する不法行為:各論
 
第8章 シンガポール紛争解決手続
 1 はじめに
 2 シンガポールにおける訴訟
 3 仲裁
 4 国際商事裁判
 5 調停
 6 おわりに
 
コラム目次 (省略)

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