東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

黄色に白の吹き出しがある表紙

書籍名

ケースで学ぶ 国際企業法務のエッセンス

著者名

森下 哲朗、 平野 温郎、 森口 聡、山本 卓

判型など

494ページ、A5判、並製カバー付き

言語

日本語

発行年月日

2017年9月

ISBN コード

978-4-641-04679-5

出版社

有斐閣

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ケースで学ぶ 国際企業法務のエッセンス

およそ企業は、持続的な成長による自らの価値の拡大とリターンの最大化を目的として事業を行う組織であるが、その活動は、法適合性および倫理的妥当性を兼ね備えていなければならない。企業法務とは、このような企業活動に関わるさまざまな法的、倫理的な課題を発見し、分析し、解決し、予防するという一連の営みであり、企業経営の重要な要素である。
 
現代のグローバル社会では、企業は、ボーダレスに最適解を求めて事業を拡大しており、複数国にまたがって事業拠点を展開している。そこでは、国内取引とは異質の特徴を持つさまざまな国際取引が日常的に行われ、企業法務の客体たる、企業が遭遇する法的、倫理的な課題も、極めて多様かつ複雑である。このため、国際企業法務は容易にその全体像がつかめず、しかも関連する内外の法令、条約、判例等を、分野縦割り的に研究することのみでは最適解が得られないという、厄介なものである。ゴールにたどり着くには、課題に関わる個々の法律問題全てを“横刺し”にしながら一体として考えなければならないため、専門知識を学ぼうにもどこから手をつけ、何をどこまで、どの程度の深さまでやればよいのかが分かりにくい。
 
こうした問題を扱うのが国際取引法や国際ビジネス法であるが、その内容は、従来の法学の縦割り科目の枠には収まっていない。本書も、従来の教科書や司法試験の試験科目としての国際関係法 (私法系) で取り上げられてきたような内容や枠組みを意識せず、企業が実際に遭遇するさまざまな国際的案件の典型的事例を取り上げた。幅広い事例の検討を通じ、国際企業法務に携わる者の、問題へのアプローチのしかたや思考回路がどのようなものかを、まずは鳥瞰的に体感できるように工夫するとともに、通常経験するであろう問題や、当然知っておくべき最小限の知識のエッセンスを、紙幅の許す限り網羅するように努めた。
 
序章では、国際企業法務の世界について、属性の異なる4名の共著者がそれぞれの視点から描写する。第1章から第6章は、国際売買契約、販売店・代理店取引、技術取引、合弁契約、海外拠点の設立や運営、プロジェクト・ファイナンスという主要な分野毎に、「事例」「着眼点」「ポイント解説」「本事例の考え方」を記述している。「事例」に続く「着眼点」では、問題の所在を明らかにしつつ何を検討すべきかを示し、「ポイント解説」では、具体的に検討すべき課題や理論を示している。そして最後に「本事例の考え方」で、事例の問題にどう対応すべきか、解決の道筋を示している。順に読み進めて頂いてもよいし、国際企業法務に関わることになったとき、あるいはその力が必要になったときに、必要な個所をピンポイントで読んで頂いても構わない。
 
ただし、国際取引の世界は日々進歩しており、本書の情報もあっという間に古くなることも考えられる。国際企業法務の暗闇を照らす灯台のようなものだと位置づけて頂き、読者自身による知識の拡充やアップデートが重要であることを付言しておきたい。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 平野 温郎 / 2019)

本の目次

序章 国際企業法務の世界
第1章 国際売買契約
 【事例1-1】新規取引案件の条件を取り決めようとしている営業部からの相談
 【事例1-2】契約の成立が争いとなっている営業部門からの相談
 【事例1-3】紛争解決方法や支払に関する営業部門からの相談
 【事例1-4】契約解除に関する営業部門からの相談
 【事例1-5】製品の品質を巡るトラブルに関する営業部門からの相談
 【事例1-6】国営企業との取引に関する営業部門からの相談
 【事例1-7】X社と和解しようという営業部門からの相談
 【事例1-8】X社との間で長期の契約を締結し,サプライソースを確保しようとしている営業部門からの相談
 【事例1-9】安全保障貿易管理の問題はないか,と気づいた営業部門からの相談
 
第2章 販売店・代理店契約
 【事例2-1】介護・リハビリ用機器Care Oneの海外向け販売推進を担当する営業部からの相談
 【事例2-2】販売代理店契約書を作成しようとする営業部からの相談
 【事例2-3】N国向けに仕様変更して輸出したCare Oneの事故発生にあわてる営業部からの相談
 【事例2-4】X社が不正行為を行っているとの情報が!
 【事例2-5】販売店契約の打切り
 【事例2-6】X社の状況の悪化
 【事例2-7】Z氏から,これまでの開拓協力に対して適切な報酬と経費を支払ってほしいとの要求を受けた営業部からの相談
 
第3章 技術取引
 【事例3-1】新規事業分野の開発パートナーの吟味――秘密保持契約
 【事例3-2】新製品の基幹部分の新規開発――他企業との共同開発契約
 【事例3-3】新製品の一部機能のスピード開発――ソフトウェア開発委託
 【事例3-4】新製品に搭載するソフトウェアの利用許諾――ソフトウェア・ライセンス契約
 【事例3-5】知的財産権を巡る国際紛争
 
第4章 合弁契約
 【事例4-1】N 国のX 社から技術提供と出資の要請を受けた!
 【事例4-2】Xプロダクツ社への技術提供と出資を本格的に検討開始!
 【事例4-3】合弁形態 (Structure) の検討
 【事例4-4】新しい工場ライン建設に多額の資金が必要!
 【事例4-5】当社ブランド「α」!
 【事例4-6】ポストクロージング
 【事例4-7】合弁会社からの撤退
 
第5章 海外拠点の設立や運営
 【事例5-1】まずは出張ベースで本社社員を派遣したいという営業部からの相談
 【事例5-2】駐在員事務所が営業行為を行っている疑いがある!
 【事例5-3】ようやく設立できた現地法人のコンプライアンス体制不備を懸念する同法人社長からの指示
 【事例5-4】労務問題に悩まされている人事課長からの相談
 【事例5-5】独占禁止法違反 (カルテル) の疑いが発生した!
 【事例5-6】顧客や関係者に対する贈賄の懸念が浮上した!
 【事例5-7】環境汚染問題が発生した! (クライシスの発生)
 【事例5-8】N国に対して経済制裁が発動された!
 
第6章 プロジェクト・ファイナンス
 【事例6-1】プロジェクト・ファイナンスによる海外電力事業参画の打診
 【事例6-2】プロジェクト・ファイナンスに取り組むことになった
 【事例6-3】プロジェクト・ファイナンスにおけるリスクはどのように分担されるのか
 【事例6-4】Bankabilityとはなにか?
 

関連情報

書籍紹介:
編集担当者による紹介 Book Information (『法学教室』No.445 2017年10月)
http://www.yuhikaku.co.jp/static_files/BookInfo201710-04679.pdf
 
実感を体感し、基礎を学ぶ (BOOKウォッチ 2017年10月15日)
https://books.j-cast.com/book052/2017/10/15006250.html
 
書評:
書評 (機関誌『国際商事法務』2018年Vol.47 No.3 2018年3月)
http://www.ibltokyo.jp/bulletin/1264.html
 
法務担当者5人による 購入書籍 分野別批評会 (『ビジネスロー・ジャーナル』2018年2月号)
http://www.businesslaw.jp/contents/201802.html
 
企業法務系ブロガーによる 辛口法律書レビュー (『ビジネスロー・ジャーナル』2018年1月号)
http://www.businesslaw.jp/contents/201801.html
 
新商品紹介 おすすめの実務書 (『会社法A2Z』2018年1月号)
https://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/103091.html
 
Kindle版:
https://www.amazon.co.jp/dp/B07HH6Y8H8/
 

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