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ベージュの表紙

書籍名

国際法のダイナミズム 小寺彰先生追悼論文集

著者名

岩沢 雄司、森川 幸一、 森 肇志、 西村 弓 (編)

判型など

808ページ、A5判、上製、箱入り

言語

日本語

発行年月日

2019年4月

ISBN コード

978-4-641-04681-8

出版社

有斐閣

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国際法のダイナミズム

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本書は、2014年2月に逝去された本学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻の小寺彰先生に追悼の意を表し編まれた国際法学の論文集です。
 
小寺先生の研究に一貫するのは、そのときどきに社会が直面する現実的課題に対してすぐれて実践的な回答を導こうとする姿勢です。そして、現実問題に対するそうした回答が、問題となる法制度の根本的な趣旨や基盤に関する鋭い洞察に基づいて導かれる点が、先生の国際法の真骨頂でした。先生の研究姿勢には、国際法が「穴だらけ」であることを正面から認めたうえで、既存の規範の制度趣旨やこれを支える諸原則等からいかに新たな規範を導いてそうした穴を埋めるかを考える、というダイナミズムが際立っていました。そうした検討の際には、国際法全体に妥当する論理と個別分野ごとに異なりうる基本原理や解釈適用のあり方の双方に目配りがなされ、また、国内においてどのように国際規範が現実に実現・実施されうるかが常に意識されていました。だからこそ、先生の議論は学術的な知的興奮に満ちているとともに、当てはめ可能なレディメイドのルールが存在しない現実に直面した実務の担い手たちから大きな信頼を得ていたのだと思います。具体的な規範内容から制度の性格や構造を導き、それらの理解に即して、一見存在するように見える法の欠缺を補って解釈論を展開するその手さばきは、見事としか言いようがありませんでした。
 
本論文集は、以上のような小寺先生の問題意識——欠缺の補充を含めた国際法(学)のダイナミズムに関する認識、制度の規範構造や基盤・趣旨への関心、普遍性と個別性への目配り、国際法と国内社会との関わり――に少しでも応えることを目指して編まれました。それは、小寺先生の国際法学に敬意を表するためであると同時に、こうした問題意識を踏まえることによって、この論文集が今後長きにわたって参照に耐えるものとなると考えたからでもあります。結果として、国際法の定立、国内法との関係、国家の主権と属性といった国際法総論的なテーマから、国際組織の権限と機能、国際人権、国家責任、海洋法、宇宙法、国際経済法、国際安全保障、武力紛争法まで、国際法のほとんどの領域にまたがる形で、30篇の論文を収録することができました。国際社会に生じる様々な新しい課題に対して、どのように法規範が解釈・適用されて、紛争が解決され、あるいは新たな秩序が生まれるか、国際法のダイナミズムの一端を本書から味わっていただけたら幸いです。

 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 西村 弓 / 2020)

本の目次

第1部 国際法の法源・国内法との関係
国際法の国内適用可能性 小寺教授と対話しながら………岩沢雄司
客観的制度──その国際法上の意義と現代的展開に関する一考察………山本 良
「国境安定性の原則」の意義と射程──「境界を確立する条約」の処分性・対世性をめぐって………西元宏治
 
第2部 国家・個人・国際組織
国際法における内的自決権の現代的意義………伊藤一頼
重大な人権侵害が問題とされる場合における第三国による非軍事的な一方的強制措置の法的性質──「第三国による対抗措置」についての批判的考察………岩月直樹
アジア地域人権秩序構想の批判的考察──特に「裁判官対話」論に着目して………寺谷広司
麻薬新条約における「引き渡すか訴追するか」原則──テロリズム防止関連条約における同原則と比較して………安藤貴世
国際立法における国家と国際組織の「パラレリズム」の機能と限界──ILCによる条約法と国際責任法の立法化作業を素材に………植木俊哉
国際機構との関係における国家の管轄権について──欧州人権条約における「管轄権」概念の分析………水島朋則
 
第3部 国家責任
非国家実体の国際有害行為に対する国家責任法の対応………兼原敦子
国家責任法上の行為帰属基準の射程──代表の概念を例に………藤澤 巌
国際法上の完全賠償原則──ホルジョウ定式の再検討………玉田 大
 
第4部 海洋・宇宙
奴隷取引船舶への干渉行為──19世紀英仏間関係を中心として………森田章夫
200海里以遠における大陸棚制度の本質──大陸棚に対する権原付与の均一性………許 淑娟
民間の船舶に対する沿岸国の措置と国際裁判………河野真理子
国連海洋法条約の紛争解決手続と海洋境界画定紛争………西村 弓
国際海洋裁判所勧告的意見管轄権についての一考察………高柴優貴子
宇宙空間におけるスペースデブリによる損害の未然防止と国際環境法………堀口健夫
 
第5部 国際経済
WTO協定における「ポスト差別義務」の位置──TBT協定に着目して………北村朋史
WTO補助金紛争における法廷経済学………阿部克則
広域FTAを通じた規制協力と規制整合性の可能性と課題…………中川淳司
国際投資協定における国家間手続の今日的機能──協定解釈に対するコントロール可能性を中心に………小畑 郁
人権法の観点から見た投資条約批判の検討──国連人権理事会独立専門家による批判を中心に………濱本正太郎
為替操作と国際法………中谷和弘
 
第6部 安全保障・武力紛争
「戦争状態」理論の再検討──伝統的国際法は平時・戦時の二元的構造の国際法だったのか?………和仁健太郎
海上法執行活動に伴うuse of forceの概念………森川幸一
「被許可型」軍事活動における関係当事者の同意の意義──平和活動型多国籍軍の実効的実施に向けて………酒井啓亘
集団的自衛権概念の明確化──援用事例とニカラグア事件判決………森 肇志
交戦の不法性と交戦者の不法性──米国クヴィリン事件最高裁判決の理論構成………黒﨑将広
核不拡散条約6条の分析視座──「パラダイム国際法」が示唆するもの………林 美香
 

関連情報

書評:
坂元茂樹「紹介 岩沢雄司・森川幸一・森肇志・西村弓編『国際法のダイナミズム——小寺彰先生追悼論文集』」 (『国際法外交雑誌』119巻1号142-152頁 2020年)

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