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白と水色の表紙

書籍名

国際法の現在 変転する現代世界で法の可能性を問い直す

判型など

448ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2020年9月

ISBN コード

978-4-535-52481-1

出版社

日本評論社

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国際法の現在

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本書は、国際法が困難に直面する時代に編まれています。より大げさに言えば、危機の時代に編まれていると言って良いかもしれません。このことは、出版された2020年、現下の新型コロナ禍の最中に出版を迎えるという時局的意味に止まりません。
 
本書は元々、2017年~2019年の『法律時報』9月号における3つの特集を元に、若干の新しい原稿を加えて書籍としたものです。それぞれの特集内容は「『国際立法』の現在」、「国際刑事法の現在」、「国際経済秩序をめぐる法動態」でした。
 
本書は、国際法に関わる諸分野を隈無く網羅しようとしたものではありません。むしろ焦点を絞り、現在における国際法の、野心的部分とそれ故の悩み、地平を切り開く試みとそれ故の困難を積極的に採り上げました。そのような仕方で、国際社会における法の在り方全般に通底する特性を見通そうとしました。もとより、法創出・形成過程に関する「国際立法」も法の実現過程に関する「国際刑事統制」も原理的にいえば、分権社会においては到達し得ぬ極北であります。現代は国境を超えて各地域を結びつけるグローバル化の最中にありますが、しかし分裂のない「国際経済」社会も見通せず、グローバル化それ自体が分裂の象徴でさえあります。本書の論者達は、こうした状況における法の可能性につき、「曲がり角」「矛盾」「課題」「萌芽」等、様々に語っています。
 
野心とそれに伴う困難は、とりわけ関連する組織において明瞭に見られます。法は、一方で自覚的な社会統制の技術ですが、同時に、そのような社会技術を行使することによって他ならぬ「我々の社会」自体の構成的特徴となり、それは組織化の契機となっています。「法」を自覚化させる国際法委員会と、高度に組織化・法化が進んだ国際刑事裁判所と国際貿易機関が本書の主要な考察対象になっているのは、自然な帰結といえます。そしてまた、それぞれの組織が生み出されたときの栄光と、現在抱える悩みと困難が、まさに「国際法の現在」となっています。
 
本書の元になった諸論考の媒体は学術月刊誌であり、性質上、「現在」を切り取る試みと言えましょう。従って、他の多くの媒体における場合と同様、細かい情報については日をおくごとに古くなっていくことは否めません。しかし、2010年代の終わりの数カ年と2020年というこの時代に、共通の時代状況を前にした「現在」への試み、各論考に通底する見方自体はいつの時代にも共通のものであり、従って、より長く後世の学術の展開にとって有意義な叡智を下支えするであろうことを確信しています。更に言えば、本書は、国際社会における法の可能性に関するこうした野心や困難、悩みに惹き付けられつつ編まれており、思慮深く多様な立場の諸論考に刺激されつつ、多くの読者がその試みに参加することを希望しております。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 寺谷 広司、伊藤 一頼 / 2021)

本の目次

変転する現代世界で法の可能性を問い直す――はしがきに代えて……寺谷広司・伊藤一頼

第1部 「国際立法」――法創出・形成過程の地平

 第1章 国際法委員会の70年と新たな傾向――国際法の漸進的発達と科学的知見……村瀬信也 

 第2章 国際立法と方法論――国際立法と国際法学……吉田 脩

 第3章 国連安全保障理事会は「国際立法」権限を簒奪したのか?
 ――国際テロリズムと大量破壊兵器の不拡散をめぐって……佐藤哲夫

 第4章 国際司法裁判所と「国際立法」――グローバル化時代の国際社会におけるその意義……酒井啓亘 

 第5章 国際法委員会による国際立法と法政策
 ――国家責任条文による対抗措置に対する法的規制の試みを例に……岩月直樹

 第6章 慣習国際法と強行規範に関する国際法委員会「結論」
 ――「国際立法」の公理(Axiom)と定理(Theorem)……根岸陽太

 第7章 条約解釈における「後の合意」と「後の慣行」に関するILC結論草案……阿部克則

 第8章 「国際立法」を通じた海洋法秩序の形成と発展……西本健太郎

 第9章 国際経済法における国際立法――ILCによる立法の可能性……福永有夏

 第10章 災害時の人の保護……植木俊哉

 第11章 環境分野の国際立法――その特質と課題……高村ゆかり

第2部 国際刑事秩序――法実現過程の地平

 第12章 国際刑事裁判所の現在……尾﨑久仁子

 第13章 国際刑事裁判所における証拠法――各国の証拠法との比較分析……成瀬 剛

 第14章 国際刑事裁判所の新たな課題――侵略犯罪に関する公判について……洪 恵子

 第15章 人道に対する犯罪の法典化の系譜……竹村仁美

 第16章 人道に対する犯罪に関する引渡しか訴追かの義務
 ――国際法委員会「人道に対する犯罪の防止及び処罰に関する条文草案」を素材として……広見正行

 第17章 混合法廷……野口元郎

 第18章 国際司法裁判所と国際刑事裁判所――手続的観点からみた協働と補完……石塚智佐

 第19章 国家の刑事管轄権……竹内真理

 第20章 政府職員の外国の刑事管轄権からの免除……坂巻静佳

 第21章 国際経済法と越境刑法の相互作用……石井由梨佳

 第22章 人権の国際保障における刑事的規律
 ――国際人権法と国際刑事法の構造的同一性と展開の諸態様……寺谷広司

第3部 国際経済秩序――変転する生活秩序における法動態

 第23章 国家安全保障と通商制限……松下満雄

 第24章 WTO上級委員会危機と紛争解決手続改革
 ――多国間通商システムにおける「法の支配」の弱体化と今後……川瀬剛志

 第25章 貿易とその敗者をめぐる法動態
 ――国際貿易体制の「最大の試練」はいかに克服しうるか?……北村朋史

 第26章 SPS協定の下での予防的国内措置……堀口健夫

 第27章 グローバルな経済秩序における自由……郭 舜

 第28章 国際経済秩序の転換と立憲主義――危機の時代か変化の時機か……伊藤一頼

 第29章 グローバル経済秩序と「持続可能な開発目標」……内記香子・三浦 聡

 第30章 EUの移民規制……大西 楠・テア

 第31章 ビジネスと人権――ソフトローの役割……吾郷眞一

 第32章 投資仲裁と常設投資裁判所――投資紛争解決制度をめぐる分裂と統合……須網隆夫

 第33章 情報・データの越境流通……鈴木將文
 

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