東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白と水色の表紙

書籍名

戦後憲法学の70年を語る 高橋和之・高見勝利憲法学との対話

判型など

324ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2020年7月

ISBN コード

978-4-535-52453-8

出版社

日本評論社

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戦後憲法学の70年を語る

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1947年に施行された日本国憲法は、今年 (2021年) で74年を迎えました。この間、日本社会が潜り抜けてきた変化の大きさは、驚くべきものがあります (学生の皆さんも、映画やドキュメンタリーなどで終戦直後や高度成長期の日本の映像を見て、「これは今の日本と本当に同じ国なんだろうか」と自問したことがあるかもしれません)。そして、法が人間の社会生活にとって不可欠のルールを定めるものである以上、法もまた社会とともに変化してきました。憲法もその例外ではありません。こう言うと、皆さんはきっと「でも日本国憲法は一度も改正されていないではないか」、と反論されるでしょう。しかし、憲法とは実は「日本国憲法」という法に収められた条文のことだけではありません。法の条文は、様々な人々によって理解・解釈され、実際に適用・運用されて初めて現実の社会生活を規律する機能を発揮することができるのであり、この理解・解釈や適用・運用のあり方には実はかなり大きな可能性の幅があるのです。皆さんが、例えば戦後早い時期の憲法の教科書と現在の教科書を見比べてみたら、この間に憲法の理解・論じ方も大きく変わってきたことに気がつくでしょう。また、判例教材などを手に取れば、裁判所もまた様々な事件に取り組む中で自らの考え方を変化させ、充実させてきたことを実感されるはずです。
 
この日本国憲法の70余年は、決して平坦な道のりではありませんでした。憲法は国の最高法規として、様々な法領域に対して基本原則や制約を設定しているため、憲法と何らかの形で関係する社会生活上の問題は実はかなり幅広いのです。これらの論点それぞれについて、憲法をどう理解するべきなのか、いろいろな考え方が対立しています。この憲法の理解や運用に関与し影響を与えるアクターも、裁判所のみでなく政府・行政や議会、それに市民社会など多様であって (憲法学もまたこのようなアクターのひとつです)、これらが異なる考え方を追求することも珍しくないのです。皆さんが目にしている日本の憲法の姿は、このような複雑なプロセスを経て形作られてきたのであり、また今後もそのような形で変化していくのだと思います。
 
そうであるとすれば、今の日本の憲法を理解し、今後の望ましいあり方を考えるには、憲法の条文を見るだけでも、教科書を読むだけでも不十分であり、上に述べた意味での憲法の歴史について知る必要があります。これには様々なアプローチがあるはずですが、本書は、高橋和之先生と高見勝利先生という憲法学の大家である二人の先生から、その学問的な歩みについてお話を伺うという方法を採りました。1940年代前半に生まれ、その人生をほぼ日本国憲法とともに併走してきたお二人の学問的履歴は、日本国憲法自体の履歴とも大きく重なります。そして憲法学というアクターは、政府や裁判所などと違って自ら権力的決定を行うことはできませんが、その代わり、憲法上の様々な問題を横断して一貫性のある全体的構想を試みるなど、憲法について知的に徹底的に考え抜くことができるという利点を有しています。憲法学の視点を通すことで、日本の憲法が持つ重要な側面が浮かび上がってくるはずです。
 
本書は、このお二人の先生から教えを受けた中堅世代の4人が、お二人に問いかけ、お話を伺い、これに若い世代なりの形で応答を試みる、という形を取りました。異なる世代同士の対話から、憲法の70年を形作ってきた知的なドラマの一端を読み取ってもらえれば、これに勝る喜びはありません。
 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 教授 林 知更 / 2021)

本の目次

第1部
――――――――――――――――――――――――――――
[解 題]「戦後憲法」が若かった頃……林 知更
1 タイムマシンに乗って
2 憲法学の変容
3 「戦中の憲法学」か「平時の憲法学」か
 
憲法総論その1――理論と方法
第1 研究の出発点、憲法学の方法論
第2 主権論と国家法人説
第3 国民主権からデモクラシーへ
 
――――――――――――――――――――――――――――
第2部
――――――――――――――――――――――――――――
[解 題]共通基盤に支えられた論争……小島慎司
1 国民内閣制論
2 権力分立
 
統治機構
第1 55年体制をどう考えるか(1)
第2 統治構造の分析視角――議院内閣制(2)
第3 権力分立論と国家の諸作用
 
――――――――――――――――――――――――――――
第3部
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[解 題]「法学としての憲法学」の多様性……宍戸常寿
1 オールラウンドプレーヤーとしての高橋和之
2 良き批判者としての高見勝利
3 司法権の概念
4 憲法訴訟論と審査基準論
5 私人間効力論
 
司法権・人権
第1 司法権の概念
第2 憲法訴訟論と審査基準論
第3 私人間効力論
 
――――――――――――――――――――――――――――
第4部
――――――――――――――――――――――――――――
[解 題]理念と現実の間……西村裕一
1 はじめに
2 戦時期宮沢憲法学について
3 政治改革と国民内閣制論
4 日本憲法学の課題
 
憲法総論その2 歴史と学説
第1 日本憲法学説史
第2 憲法と政治
第3 日本社会と憲法学

関連情報

はしがき:
一冊散策 (Web日本評論 2020年8月25日)
https://www.web-nippyo.jp/20128/
 
書評:
加藤陽子 評「2020この3冊」 (毎日新聞 2020年12月12日)
https://mainichi.jp/articles/20201212/ddm/015/070/016000c

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