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紫色の表紙

書籍名

新・判例ハンドブック 情報法

判型など

272ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2018年11月

ISBN コード

978-4-535-00831-1

出版社

日本評論社

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情報法

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デジタル化の進展は、社会や法のあり方を大きく変えている。プライバシー侵害やオンライン取引を考えればわかるとおり、現代の法的紛争の多くは、情報に関わるものであり、しかも新しい紛争が次々と登場している。このように動態的に変化し続ける「情報法」の姿を捉えることは、難しい。その一つの要因は、憲法や民法のような、体系的な法典が存在しない(し、それがふさわしいとも思われない)ことにある。一般に、法を理解するには、法律を見るだけでは不十分であり、紛争解決に際して裁判所が示した解釈のうちで先例としての価値のあるもの (判例) をも検討する必要があるが、そのことは情報法についても当てはまる。
 
デジタル化以前の情報法は、強力な情報発信の主体だったマスメディアを中心に発展してきた。長谷部恭男・山口いつ子・宍戸常寿編『メディア判例百選 (第2版)』(有斐閣、2018年) は、情報法のオーソドックスな判例集である。本書は、そのオルタナティヴとして、過去と未来をつなぐ新しいスタイルの情報法の判例集で編集されたものである。
 
本書の編集方針は、総論として情報流通の自由を置いた上で (1章)、内容に着目した情報の規律 (2章)、プライバシー・個人情報 (3章) において情報の性質の側から、また情報流通の担い手 (5章) の側から、情報法プロパーの裁判例を分析している。知的財産法は、その全体がある意味で情報法ともいえるが、情報の規律という観点から重要な裁判例を集め (4章)、さらに経済活動・行政過程・刑事法・裁判過程と幅広く、法秩序全体に情報化が及ぼしている影響を捉えている (6~9章)。
 
形式的には私が編者になっているが、裁判例の選択や配列、執筆者の選定には、様々な法分野を代表する同世代の研究者に協力を仰ぎ、数回の会合を経た。なかでも民事法分野では、中原太郎教授 (法学政治学研究科) に加わっていただいたことで、厚みのある判例集になったと思っている。また、刑事法については、成瀬剛准教授 (法学政治学研究科) にもご執筆を頂いた。
 
本書は1判例1頁で、裁判例の内容を大胆に要約し、平易に解説することを心がけた。裁判例に関連する制度や運用も、紹介されている。幸いにして、法律家や法学部の学生だけでなく、理系の研究者や実務家からも、わかりやすく全体像がつかめると好評を頂いている。情報と法の関係に興味のある方は、一度手に取ってみていただきたい。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 宍戸 常寿 / 2021)

本の目次

第一章 情報流通の自由
1 知る権利
2 意見の表明
3 報道取材の自由
4 選挙過程
 
第二章 内容に着目した情報の規律
1 わいせつ
2 児童ポルノ
3 青少年保護
4 名誉毀損——社会的評価の低下等
5 名誉毀損——公益性・公共性
6 名誉毀損——真実性・相当性
7 名誉毀損——公正な論評
8 名誉毀損——救済
9 その他
 
第三章 プライバシー・個人情報
1 肖像権
2 表現の自由とプライバシー
3 個人情報の保護
4 労働関係
5 インターネット
 
第四章 知的財産法による情報の規律
1 著作権——著作物・著作者
2 著作権——著作者人格権
3 著作権——著作権の内容
4 著作権——権利制限規定
5 著作権——侵害と救済
6 著作権——著作権による保護を受けない情報
7 特許権の保護対象
8 パブリシティ権
 
第五章 情報流通の担い手
1 放送
2 通信
3 プロバイダ
4 情報流通の場
 
第六章 情報と経済活動
1 広告
2 独占禁止法
3 商標・不正競争
4 電子商取引
5 情報と金融
 
第七章 情報と行政過程
1 行政調査
2 行政機関と個人情報
3 情報公開
4 行政による情報提供
 
第八章 情報と刑事法
1 情報 (システム) の保護
2 捜査と情報
 
第九章 情報と裁判過程
1 裁判の公開
2 取材源の秘匿
3 文書提出命令

 

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