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何組かの親子のカラフルなシルエット

書籍名

子どもの学びと成長を追う 2万組の親子パネル調査から

著者名

東京大学社会科学研究所、 ベネッセ教育総合研究所 (編)

判型など

328ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2020年9月

ISBN コード

978-4-326-25145-2

出版社

勁草書房

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子どもの学びと成長を追う

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東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所は、子どもの自立と成長のプロセスとその規定要因を分析する「子どもの生活と学び」研究プロジェクトを2014年に立ち上げた。『子どもの学びと成長を追う』は、2015年度から2018年度までのプロジェクトの研究成果である。本プロジェクトのねらいは、小学校から高校にわたる学校での経験と家庭生活の中で、子どもたちは自立に必要な力をどのようにして身につけていくのかを明らかにすることである。このプロジェクトでは、毎年小学1年生から高校3年生までの2万組ほどの親子を継続して追跡する「子どもの生活と学びに関する親子調査」を実施している。
 
第1部では、本研究プロジェクトが実施してきた複数の調査の概要と結果について解説する。第1章では、本プロジェクトが実施する「ベース調査」「卒業時調査」「語彙力・読解力調査」の3つの柱を解説する。「ベース調査」では、自立の側面を生活者・学習者・社会人としての自立として捉え、毎年調査する項目と3年ごとに調査する項目、1回のみ項目の組み合わせを用意している。高校3年生に対しては、卒業時の進路選択と将来の希望などについて特別調査を実施し、「語彙力・読解力調査」は特定の学年に対して3年ごとに同一の対象者に実施している。第2章では、調査を継続する際の回答者の脱落の影響を考察し、第3-4章では子どもを対象とした「ベース調査」、第5章では親を対象とした「ベース調査」の結果を紹介する。第6章では「卒業時調査」、第7章では「語彙力・読解力調査」の結果を分析した。
 
第2部では、子どもの自立に影響を与える様々な要因について考察している。第8章は家庭の社会経済的環境と子どもの学力・自律的学びの関連、第9章では親子の希望進路と子どもの進路選択、第10章では親の子どもへの関わり方と子どもの成績の関連、というテーマについて扱っている。第11章では「卒業時調査」を用いて大学進学の学校間格差、第12章では学習のやり方と学びの動機づけの関連、第13章では子どものなりたい職業の変遷過程を分析している。第14章は中高生の部活動と学習時間の関連を取り上げ、第15章では親の社会経済的地位が子どもの意識と進路へ与える影響を分析している。
 
このように本書では、子どもの学習と生活の両面についての自立を促す要因を探索し、親子ペアの調査であることの利点を活かし、子ども自身だけでなく親との相互作用も考慮にいれた分析が試みられている。さらに本書にはコラム欄として、専門領域の第1人者が、教育社会学 (耳塚寛明)、教育心理学 (秋田喜代美)、資質・能力研究 (松下佳代) からみた本研究プロジェクトの意義を解説している。
 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 特別教授 石田 浩 / 2022)

本の目次

第I部 「子どもの生活と学び」プロジェクトの概要
 
第1章 「子どもの生活と学び」研究プロジェクトについて――プロジェクトのねらい,調査設計,調査対象・内容,特徴と課題 [木村治生]
 1.はじめに
 2.プロジェクトのねらい
 3.調査の全体設計
 4.調査対象・内容
 5.本調査の特徴と課題
 6.おわりに――本書の構成
 
第2章 「親子パネル調査」におけるサンプル脱落の実態と評価 [岡部悟志]
 1.本章の目的
 2.サンプル脱落の「量的側面」の実態と評価
 3.サンプル脱落の「質的側面」の実態と評価
 4.結論――サンプル脱落の解決へ向けて
 
第3章 子どもの生活実態と人間関係の状況 [木村治生]
 1.本章の目的
 2.子どもの生活と価値観に関連する項目
 3.主な結果(1)―子どもが生活する「時間」と「空間」の状況
 4.主な結果(2)―子どもの人間関係の状況
 5.結論――成長による3つの「間」の違い
 
第4章 子どもの学習に関する意識と行動――学年による違いに着目して [木村治生]
 1.本章の目的
 2.本調査における学習関連項目
 3.主な結果(1)――学習行動の実態
 4.主な結果(2)――学習意識の実態
 5.主な結果(3)――校外学習選択の実態
 6.結論――学習の量的側面に表れる受験の影響
 
第5章 保護者の子育ての実態と子育てによる成長・発達 [邵 勤風]
 1.保護者調査の目的
 2.本章の目的
 3.保護者調査の主な項目
 4.主な項目の結果
 5.おわりに
 
第6章 高校生活の振り返りと進路選択――「卒業時サーベイ」の主な結果から [野﨑友花]
 1.本章の目的
 2.卒業時サーベイの調査項目
 3.対象者の基本属性
 4.主な項目の結果――高校生活と進路選択
 5.おわりに
 
第7章 「語彙力・読解力調査」のねらいと今後の課題・展望 [岡部悟志]
 1. 親子パネル調査における「語彙力・読解力調査」のねらい
 2. 「語彙力・読解力調査」の調査設計
 3. 回収状況と分析サンプルの設定
 4. 基礎分析
 5.まとめと今後の課題・展望
 
解説(1) 項目反応理論 (IRT) [加藤健太郎]
解説(2) 語彙力テストと読解力テスト [堂下雄輝]
コラム(1): 教育社会学から見た本調査の意義 [耳塚寛明]
コラム(2): 教育心理学から見た本調査の意義 [秋田喜代美]
コラム(3): 資質・能力研究から見た本調査の意義 [松下佳代]
 
第II部 子どもの成長に影響を与える要因の分析
 
第8章 家庭の社会経済的環境と子どもの発達 [石田 浩]
 1. 本章の目的
 2. データと変数
 3. 分析
 4. 結論――家庭環境と子どもの発達
 
第9章 子どもの自律的な進路選択に親への信頼が与える影響 [大﨑裕子]
 1.はじめに
 2.分析の枠組み
 3.親子の進路意識の変化の関連
 4.子どもの自律的な進路希望形成に対する親への信頼の影響
 5.子どもの自律的な進路選択における課題
 
第10章 思春期の子どもに保護者は何ができるのか――学業成績への影響を手がかりに [香川めい]
 1.はじめに
 2.保護者の価値観や子育て法は子どもにどのような影響を与えうるのか?
 3.方法
 4.保護者の教育意識や子どもへの関わり方はどう変化するのか
 5.保護者の関わり方の変化が子どもの成績変化に及ぼす影響――何が成績変化をもたらすのか
 6.まとめと考察
 
第11章 「大学全入時代」における高校生の進路選択――高校の学力ランクと学科の影響に着目して [佐藤香・山口泰史]
 1.本章の目的
 2.データと変数
 3.高校ランク・学科別に見た大学進学選択メカニズムの違い
 4.「大学全入時代」における大学進学の学校間格差
 
第12章 学習方略の使用は勉強への動機づけにどのような影響を与えるか [小野田亮介]
 1.本章の目的――学習の方法と動機づけの関連を探る
 2.データと変数
 3.結果
 4.結論――学習方略指導を起点とした動機づけ支援の可能性
 
第13章 将来の夢と出身階層 [藤原 翔]
 1.子どもの職業希望を追跡する
 2.分析の枠組み
 3.職業希望を誰が持つのか
 4.どのような職業を希望しているのか
 5.専門職とSTEM職業の希望についての分析
 6.希望職業の社会経済的地位についての分析
 7.職業希望の分析からみえてきたもの
 
第14章 中高生の部活動時間が学習時間に与える影響――パネルデータ分析による効果推計 [須藤康介]
 1.本章の目的
 2.分析に用いるサンプル
 3.部活動状況の確認
 4.「部活は勉強のジャマになっていない」説の検証
 5.「部活を頑張った人は引退後に勉強を頑張る」説の検証
 6.結論――中高で異なる部活動の影響
 
第15章 社会経済的地位が教育意識・行動と進路に与える影響――進学した高校の偏差値を規定する要因の検討をもとに [木村治生]
 1.本章の目的
 2.本章の構成
 3.扱うデータとSES尺度
 4.SESによる教育意識・行動の違い
 5.進学した高校の偏差値を規定する要因の分析
 6.結論――政策や実践へのインプリケーション

関連情報

東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学び」研究プロジェクト
https://web.iss.u-tokyo.ac.jp/clal/
 
書評:
米川英樹 (宝塚大学) 評 (『教育学研究』第88巻 第3号 2021年9月)
https://doi.org/10.11555/kyoiku.88.3_482
 
新藤久典 (文部科学省学校業務改善アドバイザー) 評 (日本教育新聞 NIKKYO WEB 2021年3月15日)
https://www.kyoiku-press.com/post-228055/
 
関連記事:
学びを「科学」する: ベネッセ・木村治生さん「学習時間より『学習方略』が成績に影響する」 (朝日新聞EduA 2021年5月25日)
https://www.asahi.com/edua/article/14356887

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