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白い表紙に大きなタイポグラフィの書名

書籍名

東大塾 これからの日本の人口と社会

判型など

304ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2019年1月25日

ISBN コード

978-4-13-053027-9

出版社

東京大学出版会

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これからの日本の人口と社会

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『東大塾 これからの日本の人口と社会』は、2017年9月から11月にかけて開講された計10回の講義がベースとなっている。本企画を立ち上げるにあたって最初に思ったことは、超高齢社会をできるだけ積極的に位置づけたいということであった。高齢化というと、労働力不足、若年人口の減少、社会の活性を阻む、といった否定的なイメージがつきまとい、若年層との関係では世代間格差が強調される。しかしながら、1970年半ばから少子化が始まり、80年代半ばに本格化した人口高齢化を受けて、人口減少は確実にやってくる未来の姿である。そこで思いついたのが、「成長型の超高齢社会」という構想であった。日本は現在、65歳以上人口比が28.4%という超高齢社会である(総務省統計局2019 「統計トピックスNo.121」 (http://www.stat.go.jp/data/topics/topi1210.html))。生活の基本的な場となる世帯を代表する世帯主年齢にいたっては、全世帯のうちの半数以上が65歳以上となった。いくら長寿化が進んでも、少子高齢化の進行は国外から新たな人口が流入しない限り、人口規模の減少は避けることができない。このような現状を悲観的にのみ捉えることなく、リスクをチャンスに捉えて未来に向けて積極的に位置付け、展開することはできないものか。最も高齢化した社会・日本が提示する新たな未来社会のモデルとはどういったものか。このような問いかけが、本企画を立ち上げる背景にあった。
 
本書は、人口を社会という観点から、規模、制度、場、という3つの柱を立てて議論した。人口には大きく、年齢構造の側面と規模の側面がある。少子高齢化は若年層が縮小して高齢層が拡大するという年齢構成の変化をさし、その結果として人口規模が縮小する。人口を社会の側面から検討する際に、過疎化や労働人口の不足、外国人人口の流入といった側面は人口規模に着目したテーマである。人口の高齢化が進行した結果、人口規模は縮小する。このような人口規模の変容は、人口を構成する人々の年齢構成やライフステージによって異なる社会的ニーズの違いとも関連する。社会保障制度や雇用制度、教育といった社会の諸制度は、人口を構成する人々がいかなる社会的支援を求めるかと関連するが、制度が立ち上がった頃に想定されていた人々のニーズの傾向がマクロなレベルで変化し、さらに諸制度の前提となっていた個々人の生き方や家族のあり方が変わっていく。社会政策は将来の様々なリスクを想定して未然に防ぐ機能を持ち合わせることが想定されるが、実際のところ、必ずしも期待通りにはなっていない。
 
本書は次の10章から構成される。
「第1講 歴史と人口――歴史人口学からみる人口減社会」(鬼頭 宏 著)
「第2講 人口移動――都市と地域の人口問題」(佐藤泰宏 著)
「第3講 地方創生一人口減少社会と地方創生」(増田寛也 著)
「第4講 希望――人口減少と労働問題」(玄田有史 著)
「第5講 働き方――人口減少社会における働き方を考える」(大沢真知子 著)
「第6講 若者支援――人口減少社会における若者支援のあり方」(工藤 啓 著)
「第7講 移民政策――人口減少社会における移民政策と日本の将来」(上林千恵子 著)
「第8講 社会保障――超高齢社会の社会保障制度」(吉川 洋 著)
「第9講 医療―一日本とシンガポールにおける在宅医療と遠隔医療の展開」(武藤真祐 著)
「第10講 人口と社会持続可能な成長型超高齢社会をめざして」(白波瀬 佐和子 著)
 
以上、本著を通して共通するメッセージは、超高齢社会の主役はあくまで人であるということ。また、自ら考えイノベーションを起こそうとする発想力、その行動力に技術革新。これらが成長型超高齢社会の成長を実現する鍵になっていくということである。他者から言われて重い腰を上げるのではなく、国、地域、個人が自らの発想力、企画力を磨いて、これまで経験したことのない超高齢社会の成長モデルの構築に積極的に参画することが未来に向かった風穴を開けることになる。全ての世代が、それぞれの事情によって、さまざまな参画のしようがあり、そこでのダイバーシティを積極的な違いとして諸制度にうまく取り込み、発想の転換を後押しする社会こそが、これからの人口減社会を救うことになる。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 白波瀬 佐和子 / 2019)

本の目次

まえがき

第1講  歴史と人口――歴史人口学からみる人口減少社会 (鬼頭 宏)
はじめに
1 最新の人口推計が示す日本の未来
2 年齢構造の変化――生産年齢人口の減少と高齢者の増加
3 少子化の必然性
4 「静止人口」は国家目標だった
5 家族制度――超低出生率国には共通の特徴がある
6 人口波動――人口は増減を繰り返しつつ増加してきた
7 静止人口の先にあるもの――目指すべきは文明のパラダイムシフト

I 人口と地域

第2講 人口移動――都市と地域の人口問題 (佐藤泰裕)
はじめに
1 日本の都市・地域
2 社会増減――人口移動による変化とその要因
3 順位――規則の法億と人口集中のメカニズム
4 大都市形成のメカニズム
5 都市規模の効率性
6 過剰都市化と政策の役割
7 自然増減と都市規模
8 若者の移動

第3講 地方創生――人口減少社会と地方創生 (増田寛也)
はじめに
1 地方創生の課題
2 若年人材の都市部への流出とUターンの可能性
3 AI (人工知能),ロボットの可能性
4 シェアリングエコノミーの拡大
5 地域力向上について

第4講 希望――人口減少と労働問題 (玄田有史)
1 地域と希望
2 地域と移動
3 地域と交流
4 希望活動人口へ

II 労働

第5講 働き方――人口減少社会における働き方を考える (大沢真知子)
はじめに
1 人口減少社会の到来
2 女性労働政策の3つのステージ
3 日本的雇用慣行を支える条件の変化
4 非正社員の増加と社会システム
5 長時間労働と女性の活躍

第6講 若者支援――人口減少社会における若者支援のあり方 (工藤 啓)
はじめに
1 若者とは誰か
2 無業社会
3 企業と若者支援
4 失業者の対策
5 就職支援ではみたせないニーズ
おわりに

第7講 移民政策――人口減少社会における移民政策と日本の将来 (上林千恵子)
はじめに――人の移動と国民国家
1 移民政策と移民の定義
2 移民政策の隘路――欧米諸国の経験から
3 日本の外国人労働者受け入れ政策または移民政策
4 今後の展望

III 社会保障と医療

第8講 社会保障――超高齢社会の社会保障制度 (吉川 洋)
はじめに
1 人口減少 / 少子高齢化の下での経済成長
2 先進国の経済成長を生み出すのはイノベーション
3 経済社会の閉塞感
4 格差の「防波堤」としての社会保障
5 日本の財政で伸びているのは社会保障関係費
6 医療

第9講 医療――日本とシンガポールにおける在宅医療と遠隔医療の展開 (武藤真祐)
はじめに
1 医療法人 鉄祐会の取り組み
2 日本の医療の問題再考

第10講 人口と社会――持続可能な成長型超高齢社会をめざして (白波瀬佐和子)
はじめに
1 日本の将来推計人口
2 合計特殊出生率
3 日本の急速な人口高齢化の二つの側面
4 人口構造の変化と個人のライフコースの内容
5 高齢期の社会リスクとその対応――家族への役割期待とその限界
6 日本型福祉社会をめぐる二つの誤算
7 変わる高齢者像
8 人口構造の変化と個人のライフコースの変容
9 所得再分配効果は改善しているか?
10 社会保障は助け合いの制度
11 人口高齢化を格差の観点からみると
12 超高齢社会のお互いさまの新システム――助け合い / お互いさまの関係
 
 

関連情報

グレーター東大塾:
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/society/continuing-edu/gtj.html
 
自著解説:
白波瀬佐和子 (ALL REVIEWS 2019年2月28日)
https://allreviews.jp/review/2911
 
書評:
東大塾 これからの日本の人口と社会 白波瀬佐和子編 (日本経済新聞朝刊 2019年4月27日)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO44250310W9A420C1MY7000/
 
GWに読みたいおすすめ30冊 (academyhills 2019年4月26日)
https://www.academyhills.com/library/topic/2019/1904GW30-5.html
 
今週の本棚 大竹文雄 評 (毎日新聞 2019年3月17日)
https://mainichi.jp/articles/20190317/ddm/015/070/011000c
 

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