東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

ベージュの表紙の中央に縦書きで書名

書籍名

高雄山神護寺文書集成

著者名

坂本 亮太、 末柄 豊、 村井 祐樹 (編)

判型など

626ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2017年3月

ISBN コード

978-4-7842-1883-7

出版社

思文閣出版

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高雄山神護寺文書集成

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本書の概要を一言で述べれば、神護寺という寺院に伝わった古代・中世の文書 (もんじょ) および記録をまとめた史料集ということになる。ここで、「伝わった」と言い、「伝わっている」と言わないところが重要である。
 
京都の北西に位置し、紅葉の名所として知られる高雄山神護寺は、真言宗の寺院としておよそ1200年の歴史を有する。同寺は、平安時代末期および戦国時代に複数度の火難に遭ったものの、空海自筆の『灌頂暦名』や伝源頼朝像をはじめとして、教科書などで目にするような文化財をいまなお多数伝えている。毎年5月の連休には、普段は国立博物館に寄託されてある国宝・重要文化財までもが寺内に里帰りをはたし、曝凉 (虫払い) を兼ねて一般に公開されるので、機会があれば、ぜひ新緑の神護寺の風致ともども味わってもらいたい。
 
曝凉される文化財のなかには、『神護寺文書』の名で重要文化財に指定されている院政期から室町時代にかけての文書 (巻子23軸と掛け軸1幅に整理されている) があり、その大部分 (19軸・1幅。274通) は、すでに1940年代に学術雑誌『史林』誌上で活字化がなされている。にもかかわらず、今回あらためて神護寺にかかわる文書をまとめて史料集を編んだのだから、当然そこには新機軸がある。
 
本書では、おおむね16世紀までを対象に、『神護寺文書』(23軸・1幅) をはじめ現在も神護寺に伝わっている文書だけではなく、かつて同寺に伝わり、現在は他所にのこされている文書、さらには、文書を出した側がのこした控えなどから、神護寺に充てられたことが知られる文書までを探索収集し、かつて神護寺に伝わったであろう文書を能う限り集めてまとめている。そこで、すでに活字化されている『神護寺文書』と区別し、集めてまとめたことが分かるようにという意図をこめて、『高雄山神護寺文書集成』という書名とした。このような編集方針は、個々の文書が持っている情報量は必ずしも多くないが、旧蔵文書をまとめることで、個々の文書の理解が変化ないし深化する場合は少なくないという認識にもとづくものである。
 
本書に収めた文書496通のうち、現在も神護寺に伝わっている文書は302通で、旧蔵文書が194通ということになる。神護寺に限らず、現在まで長い時間を経て伝わっている古代・中世の文書は、必ずしもすべてが本来伝わった場所にのこされているわけではない。すでに同時代から、寺院間での僧侶の移動にともない文書が移動する場合があった。さらに、文書が現用としての意味を失うと、早くは江戸時代のうちから、好古の対象として、時には再生紙の材料として寺外に流出することが少なくなかった。明治以降の大きな社会変動も移動を後押しした。博物館や個人コレクターの所有する文書の多くは、本来のかたまりからはぐれてしまったものなのである。
 
旧蔵文書を探し出し、かつて存在した文書のかたまりを復元する試みは、完成形が不明で、失われたピースも多数あるジグソーパズルを組み立てるような作業だといえる。それゆえ、本書を手かがかりに新たなピースを探し、かつての神護寺文書の復元を続ける営みは、本書の読者に開かれているのである。
 

(紹介文執筆者: 史料編纂所 准教授 末柄 豊 / 2018)

本の目次

序―刊行によせて― 谷内弘照 (高雄山神護寺貫主)
例言
灌頂暦名
文書篇
記録篇
解題
花押集
寺外流出文書・記録所蔵者別索引
神護寺所蔵文書・記録目録
 

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