東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白と黒の表紙

書籍名

テクストとイメージ アンヌ=マリー・クリスタンへのオマージュ

判型など

272ページ、A5判、上製

言語

日本語

発行年月日

2018年6月

ISBN コード

978-4-8010-0352-1

出版社

水声社

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テクストとイメージ

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本書は、去る2016年5月21日に東京大学において故アンヌ=マリー・クリスタン先生 (1942~2014) を偲んで開催されたシンポジウムの報告です。アンヌ=マリー・クリスタンは、テクストとイメージの相関という分野において先駆的な研究者でした。日本と緊密な関係を持ち、思索を深める上で日本語の文字や日本文化の美意識にも大きく影響を受けた人です。
 
子供時代をアルジェリアで過ごしたアンヌ=マリー・クリスタンは1962年にパリ高等師範学校 (エコール・ノルマル・シュペリユール) に入学、古典文学の教授資格を取得します。ソルボンヌで助手を務めた後、1970年にパリ第七大学で教鞭をとることになりました。1982年に学内で正式にエクリチュール研究センター (CEE) を設立、これが2001年にエクリチュール及びイメージ研究センター (CEEI) となります。1983年に教授となり、2008年に退職して名誉教授となりました。
 
自身の研究の傍ら、彼女は常に共同研究にも力を注ぎ、フランスにおけるテクストとイメージの相関についての研究を前進させ、日本という国は特別な位置を占めていました。パリにあっては、第七大学の優秀な日本学者たちの専門知識に頼りながら、実際に何度も現地に赴いたことはやはり掛け替えのない体験で、彼女の思索に幾度も新たにインスピレーションを吹き込んだのです。
 
本書の寄稿者たち各人がそれぞれの関心の対象について研究を進めていく上で、彼女からどのように示唆や影響を受けたのかを示すことが主眼です。ゆえに本書の各論文の扱う分野が多岐に亘っているのはまさに狙いどおりのことと言えましょう。ただ、アンヌ=マリー・クリスタンの持っていた主な志向に基づいて、本書では各論文を三つのグループに分けて収録しました。
 
第一部では作家と芸術家の関係というのが大きなテーマとなります。吉田典子はボードレールとマネの関係、千葉文夫はフランシス・ベーコンとミシェル・レリスの結びつき、寺田寅彦はモーパッサンの短編群を同時代の挿絵画家たちがどのように表現したかについて語ってくれました。第二部は、テクストとイメージの相関、特に漫画と博物館学の分野を中心とした研究です。森田直子はロドルフ・テプフェールの描線に迫り、北村陽子は大島弓子の漫画、吉村和明はジャン=リュック・ゴダールの美術展「ユートピアへの (複数の) 旅」について考えます。そして最後の第三部は、書かれたものと図像、音の関係について掘り下げることを目指しました。谷川多佳子の日本と西欧における記号に関しての考察に続いて、ユンジュン・ドウはマラルメの『骰子一擲』、マリアンヌ・シモン=及川はピエール・アルベール=ビローの「見る詩」、ヤン・バテンスは音声詩人ヴァンサン・トロメについて。そして結びとして稲賀繁美による回想記は、アンヌ=マリー・クリスタンが日本人学生たちにとって学問的に、また人間的にどのような役割を果たした人物であったかが活写されます。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 マリアンヌ・シモン=及川 / 2019)

本の目次

はじめに
マリアンヌ・シモン=及川
 
第I部 作家と芸術家
吉田典子: 「ボードレールとマネ‐散文詩「紐」を中心に」
千葉文夫: 「フランシス=ベーコンによるレリスの肖像」
寺田寅彦: 「モーパッサン短編作品集と写真製版技術の挿絵」
 
 
第II部 漫画と美術館の展示
森田直子: 「小説を読む経験とはどのようなものかー高野文子の『黄色い本 ジャックチボーという名の友人』における文字とイメージ」
北村陽子: 「大島弓子のmanga」
吉村和明: 「ジャン=リュック・ゴダールと <ユートピアへの (複数の) 旅>」
 
第III部 文字、絵、音
谷川多佳子: 「文字、イメージ、思考-日本と西欧」
ユン=ジュン・ドウ: 「マラルメの『賽の一振り』の諸ページにおける視覚的・空間的解読」
マリアンヌ・シモン=及川: 「ピエール・アルベール=ビローの視覚詩の誕生―ある変身の物語」
ヤン・バテンス: 「音声詩の詩人のタイポグラフィーの遊戯」
 
アンヌ=マリー・クリスタン書誌
 
あとがきにかえて
稲賀繁美: 「Word and Image学会にいたるアンヌ=マリー・クリスタンの若干の追憶」
 

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