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白い表紙に農村の写真2枚

書籍名

農村景観の資源化 中国村落共同体の動態的棚田保全戦略

著者名

菊池 真純

判型など

380ページ

言語

日本語

発行年月日

2016年9月27日

ISBN コード

978-4-275-02052-9

出版社

御茶の水書房

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農村景観の資源化

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農の多面的機能が重視され、農村景観の美しさに対する評価が高まる一方で、農村景観によって生計を立てられる農家は多く存在していない。市場経済のなかで、農業の衰退や農村の疲弊が存在するなかでも、農業を営む人々が農村景観を糧に生活を成り立たせることは可能か、という問いが本書の原点である。それを実現するためには、著書の題目でもある『農村景観の資源化』が必要であり、現地での調査から『農村景観の資源化』の考察を行った。また人間生活を含む生きたものを総括して保全していく「動態的保全」という概念に対して、3つの村の異なる動態的保全のあり方を示し、この概念に加筆を行った。
 
本書の調査地は、少数民族が棚田耕作を主とし、600年以上ほぼ完全に近い自給自足の生活を行ってきた中国広西壮族自治区龍脊棚田地域である、各村のリーダー・地域住民・地域への旅行者に対する聞き取り調査を中心に、現地調査を行ってきた。過去に様々な論文を執筆し、その集大成として本書を出版した。
 
社会や市場の変化、また、人々の価値観や需要の変化が生まれるなかで、資源とされるものも変化し、また資源を扱う共同体のあり方にも変化がみられる。本研究は、社会変化のなかで人々が農村景観を資源化してきた過程を示し、農村景観に対する人々の価値観や管理の方法、資源分配、そこに関わるアクターにどのような変化が生まれたか、またその過程のなかで、農村景観を動態的に保全することが可能であるか、それによっていかなる山間地農村の発展形態を模索することができるかという課題に取り組んだ。
 
農村景観を作り上げてきた背景には、伝統的な村落共同体の存在がある。本研究における村落共同体の範囲は、森林・水源・農地といった自然資源の管理・分配の単位と捉えられ、具体的には、地域内・村内の中に複数存在する伝統的な自然集落・住民グループが挙げられる。今日もこうした自然資源の管理・分配がみられるが、地域外部の農村景観に対する評価により、農村景観が旅行業資源として変化した今日、その新たな資源を取り巻く行動主体は多様化し、範囲も広がりをみせている。つまり、従来の伝統的な村落共同体を基礎としたうえで、地方政府・旅行会社・学者・旅行者といった新たな行動主体が共同体構成員として加わり、さらに伝統的な村落共同体を基礎とし、その範囲・構成員を広げた新たな村落共同体の考察を行った。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 特任准教授 菊池 真純 / 2019)

本の目次

序論 問題意識の所在と本書概要
第1章  農村景観の動態的保全に関する理論
 はじめに
 1 農村景観への着目
 2 問題意識の所在
 3 景観・農村景観・文化的農村景観
 4 資源としての農村景観
 5 コモンズ論を基にした資源分配
 6 質的調査研究の手法
第2章  龍脊棚田地域の3つの村
 はじめに
 1 龍脊棚田地域の概要
 2 平安村の概要
 3 大寨村の概要
 4 古壮寨の概要
 5 寨老制という伝統的村内自治体制
 6 龍脊棚田地域に現存の寨老
 7 寨老制廃止の意味と今日に寨老制が残る背景
第3章  3つの村の棚田保全を支える特徴的要素
 はじめに
 1 棚田耕作へ出稼ぎに来る村外農民 (平安村)
 2 平安村へ来る出稼ぎ棚田耕作者に関する調査
 3 出稼ぎ棚田耕作者に関する今後の課題
 4 伝統的村落共同体による森林管理 (大寨村)
 5 現在の大寨村の森林資源管理
 6 生態博物館制度による旅行教育 (古壮寨)
 7 古壮寨への生態博物館指定
 小括
第4章  住民・旅行者・政府の農村景観への眼差し
 はじめに
 1 地域住民への調査方法
 2 地域住民への調査結果
 3 国内外旅行者への調査方法
 4 国内外旅行者への調査結果
 5 龍脊棚田地域に対する需要 (旅行者の視点)
 6 景観形成のための棚田耕作への移行 (住民の視点)
 7 所得政策と結びつく棚田景観 (政府の視点)
第5章  農村景観資源の動態的保全戦略
 はじめに
 1 農村景観の資源化による保全
 2 地域住民の兼業化の奨励
 3 伝統を基礎とした新共同体の再構築
 4 地域の強みへと転換した従来の弱点
 5 結論
 

関連情報

書評:
林海 評 (『村落社会研究ジャーナル』第48号 2018年5月)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jars/24/2/24_46/_article/-char/ja/
 

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