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書籍名

史学会シンポジウム叢書 戦後史のなかの「国家神道」

判型など

288ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2018年10月

ISBN コード

978-4-634-52367-8

出版社

山川出版社

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戦後史のなかの「国家神道」

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「国家神道」という言葉を聞いたことがあるだろうか? 日本で教育を受ければ、高等学校の教科書などで一度は必ず目にしたはずの言葉ではある。しかしそれについて説明せよと言われても、「戦前日本の神道やそれにまつわる仕組み」という以上に、具体的な答えを返せる人は稀だろう。それも当然である。研究者の見解からして区々なのだから。
 
この本は、そうした「国家神道」について、いったいこれは何であるのかと、一度でも疑問を抱いたことのあるすべての人のために、編まれた。その意味で、本書は、「国家神道」について考えようとした本である。だが、「国家神道」とは何かという問いに答えることを目的とはしていない。そもそもそうした問いに答える必要があるのか、という次元から問い直したものだからである。なぜわざわざそんなことをするのか? それは、「国家神道」という考え方が、主に戦前の在り方を指すものであるにもかかわらず、基本的には、戦後の産物であるという理解に立っているためである。
 
少数ながらも、「国家神道」ないしそれに近い用例は戦前にもあり、それらが戦後の政策に影響を及ぼしてもいる。しかし「国家神道」という言葉が広く知られるようになったきっかけは、1945年末にGHQが発したいわゆる神道指令であり、これが関連する領域の議論に決定的な影響力を及ぼした。占領が終わると、やがて靖国神社国家護持運動とそれへの反対運動が起き、そのなかで「国家神道」は、占領期のそれを踏まえつつも独自の定式化がなされていく。そしてそれが一般書や判例・憲法学説などを介して定着していく。つまり「国家神道」は、たとえそれが戦前のものであったとしても、戦後日本における政策や社会運動・宗教運動と切り離して理解することの難しいものなのであり、そしてまさにこのことが、「国家神道」をめぐる混迷を生み出している面がある。
 
こうした理解をおおむね共有しながら、専門や立場を異にする第一線の研究者を集め、2017年の史学会大会にてシンポジウムを開催した。好評を博したこのシンポジウムを受け、その時の報告をもとにした6本の論文に、10本のコラムと充実した資料編を配したのが本書である。「国家神道」についてどう考えたらよいのか、各自で判断するための共通の基盤となることを目指した一冊である。
 
刊行後、関係する主要な学会誌等において、本格的な書評で取り上げられ、賛否さまざまな議論が展開されている。編者としては、それに逐一答えるのはなく、本書の成果を踏まえながら、自らの考えをより分かりやすい形で提示することを、次の課題としていきたい。

 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 山口 輝臣 / 2020)

本の目次

この本が考えようとしていること          山口輝臣
 
I部「国家神道」まで
1章 「国家神道」概念の近現代史        藤田大誠
2章 「国家神道」と南原繁                 苅部 直
 神道指令と公葬                               前田修輔
 歴史教科書のなかの「国家神道」       朴 輪貞
 象徴天皇制と「国家神道」                河西秀哉
 
II部「国家神道」をつくる
3章 村上重良「国家神道」論再考        昆野伸幸
4章 戦後憲法学における「国家神道」像の形成         須賀博志
 藤谷俊雄の「国家神道」研究             佐々木政文
 新宗教研究と「国家神道」                寺田喜朗
 浄土真宗と「国家神道」研究             辻岡健志
 国家仏教と「国家神道」                   北 康宏
 
III部「国家神道」のこれから
5章 「国家神道」論の現状をどう見るか         谷川 穣
6章 「国家神道」をどうするか            山口輝臣
 初詣と「国家神道」                         平山 昇
 近世史のなかの「国家神道」             三ツ松誠
 「国家神道」の余白に                      小野 将
 
附録 「国家神道」関連年表/「国家神道」主要文献抜粋/「国家神道」研究主要参考文献
(藤田大誠+入倉滉太・木村悠之介)

関連情報

著者インタビュー:
歴史から見る天皇制 桐山桂一・論説委員が聞く (中日新聞 2019年4月27日)
https://www.chunichi.co.jp/article/20653
 
書評:
金子宗徳 評 (『国体文化』1153 2020年6月)
青井哲人 評 (『神園』23 2020年5月)
長谷川亮一 評 (『ピープルズ・プラン』88 2020年)
阪本是丸 評 (『史学雑誌』128 (12) 2019年12月)
新田均 評 (『宗教法』38 2019年11月)
島薗進 評 (『宗教研究』93巻2号 2019年9月)
小川原正道 評 (『日本歴史』856 2019年9月)
藤本頼生 評 (『国学院雑誌』120(4) 2019年4月)
書籍紹介 (『明治聖徳記念学会紀要』復刊第55号 2018年11月3日)

研究会:
「国家神道と国体論に関する学際的研究―宗教とナショナリズムをめぐる「知」の再検討―」 (國學院大學たまプラーザキャンパス 2017年12月16日)
https://www.kokugakuin.ac.jp/event/43762

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