東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に神道のイラスト

書籍名

Boomsbury Shinto Studies The Origin of Modern Shinto in Japan The Vanquished Gods of Izumo

著者名

Yijiang Zhong

判型など

272ページ

言語

英語

発行年月日

2016年10月6日

ISBN コード

9781474271103

出版社

Bloomsbury Academic

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

The Origin of Modern Shinto in Japan

英語版ページ指定

英語ページを見る

「神道」と言えば、日本列島に住んでいる人たちにとってごく身近な存在であり、神社、祭り、初詣、お守りなど日常生活の一部となっている慣習と文化だと言えよう。それゆえ「神道は日本の民族的宗教だ」という根強い考え方がある。一方、戦後以来の学術研究において、「神道」といったものは社会、文化、または国家としての「日本」との関係が大きな研究問題となっており、日本国内と海外において研究者が互いに批判的な研究立場をいくつか取りながら研究を進めてきている。概ね、1、神道は日本の民族的宗教と文化である、2、神道は専制的な近代天皇制国家のイデオロギー的装置であった、3、神道は歴史的起源を持つ慣習でありながら政治的な面も持っていた/いる、という三つの立場があると言える。本著者は3番目の立場をとり、The Origin of Modern Shintoを書き上げた。
 
大きな特徴として、この本は1、「神道」を含め神道研究に重要な概念と単語を完全に歴史化する。つまり、神道といったものが歴史上ずっとあったという前提をせずに、いつ、どのように「神道」という言い方が使われ始めたか、なぜ人々が「神道」を使おうとしたか、そして「神道」で何を指し示そうとしたか、を問題にする。これらの問いで調べてみると、意識的に「神道」を使い始めたのは、十六世紀の吉田神道であったことが分かった。2、「神道」を歴史化するというのは、天照大神が神道の最も尊い神様、天照大神を祀る伊勢神宮は神社の中で一番重要だという考え方を取らずに、むしろ今当たり前のようなこの考え方はどのように形成されたかを問題化する。このように史料を調べると、近世期において出雲大社とその神様大国主命は、伊勢神宮と天照大神に負けない社会的な影響力があったことが分かった。そして、その影響力が如何に生まれたかを近世末期におけるグローバルな政治的文化的な動きと関連付けて追究した。さらに、明治期に出雲大社と伊勢神宮の間で起こった論争に着目し、如何にこの論争で大国主命が天照大神の地位を脅かしたか、その脅威によって明治国家の正当性が危うくされたかを追究した。3、概念を歴史化するというのは、「宗教」とは近世までなかった概念、明治期に入ってから初めて西洋から導入された概念であったという理解をすること。そうすると、そもそも「神道は日本の民族宗教」という考え方が、「宗教」という近代的概念が日本に入ってから可能となったことが分かる。「宗教」概念を歴史化することで、明治期の「神道」と「宗教」の関係に注目し、新しい神道の歴史を書くことができた。簡単に言うと、明治政府は、天照大神に挑戦した大国主命を私的なものとしての「宗教」と定義することで、天照大神に対する儀礼が公的な、国民全員参加すべきものだと定義でき、それによって明治国家は政教分離ができた、つまり近代国家となるための重要な条件のひとつをクリアした政治権力として出発することができたのである。
 

(紹介文執筆者: 東洋文化研究所 准教授 鍾 以江 / 2018)

本の目次

List of Figures
Acknowledgements
Note on Text/Translation
Introduction
1: Resurrecting the Great Lord of the Land, 1653-1667
2: The Month without the Gods, 1600-1871
3: True Pillar of the Soul, 1792-1846
4: Converting Japan, 1825-1875
5: Competing Ways of the Gods, 1872-1889
Conclusion The Izumo Gods, Nation, and Empire
Notes
Bibliography
Index
 

関連情報

書評:
1, Review by Carole Cusack. Alternative Spirituality and Religion Review 8:1 (2017)
https://www.academia.edu/35003586/Review_of_Yijiang_Zhong_The_Origin_of_Shinto_in_Modern_Japan_The_Vanquished_Gods_of_Izumo
 
2, Review by Mark Teeuwen. Japanese Journal of Religious Studies 44/2: 325–332
https://nirc.nanzan-u.ac.jp/nfile/4637
 
3, Review: Jolyon Thomas on studies of Shinto, H-Japan (Nov. 14, 2017)
https://networks.h-net.org/node/20904/discussions/837862/review-jolyon-thomas-studies-shinto
 

このページを読んだ人は、こんなページも見ています