東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

模様の入ったライトグレーの表紙にDESIGNと白抜きのタイポ文字

書籍名

芸術教養シリーズ19 私たちのデザイン3 空間にこめられた意思をたどる

著者名

川添 善行 (著)、 早川 克美 (編)

判型など

206ページ、A5判、並製

言語

日本語

発行年月日

2014年2月17日

ISBN コード

978-4-344-95246-1

出版社

京都造形芸術大学東北芸術工科大学出版局藝術学舎

出版社URL

書籍紹介ページ

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空間にこめられた意思をたどる

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建築の設計をする際に気をつけているのは、「派手な建物をたくさんつくるのではなく、ひとつひとつのプロジェクトの中にどのような思考を展開できるか」ということである。旅先の何気ない風景、いつもの街角。それらを見る度にデザインの意味を自分なりに考えるのが、ごく自然な習慣となっている。こうした私なりのデザイン的思考をきちんとまとめるために生まれたのが、この本である。
 
私の専門分野は、建築意匠、もしくは風景論と呼ばれている。前者の建築意匠とは、建築のデザインを研究する分野を指す。古くから、建築設計の方法論について多くの議論がされてきたが、建物を構成要素に分解し各要素の美しさを検証したり、光の効果などを研究するのが主であり、建築の形式が周辺の場所にどのような影響を与えるかについて議論されることはほとんどない。後者の風景論は、各地の風景の特質を浮き彫りにし、その背景にあるメカニズムを探究する学問だが、現状の把握が主であり、そこから新しい建築をつくり出す論理を導くことは困難である。私は、これまでのキャリアの中で、この両者を学ぶことができた。建築をつくり出す回路と風景を理解する回路である。この二つの回路がつなぎ合わさるとき、日本の風景の中で立ち上がる建築の姿を描くこと、場所ごとに浮かび上がる然るべき形式を探求することができるのではないかと考えた。

(1) 空間把握の新たな方法論
本書は、多岐にわたる事例を、軸線 / 迷宮、加法 / 乗法、抽象 / 感情、明示 / 重層、解釈 / 手法、連動 / 受容、社会 / 個人、伏臥 / 屹立、未来 / 芸術、技術 / 都市、保存 / 生業、様式 / 機能、構築 / 出現、瞬間 / 永遠、求心 / 遠心という15の対の概念として提示している点が特徴的である。単なる事例紹介にとどまらず、空間体験を概念的に抽象化することにより、空間把握の新たな方法論を提示している。

(2) 分野横断的な事例選定
本書の対象は、建築物以外にも、集落や河川、土木構造物など幅広い分野をカバーしている。学問分野としては、建築学の他に、土木工学、農学分野にまたがる対象物選定となっている点が注目に値する。建物、建物群、構築物、自然要素などを並列的に捉える試みは、中長期的な国土計画にとって重要な視座を提示するだけでなく、これまでに類を見ない新しい「空間学」の可能性を提示している。

(3) 空間の価値と魅力の社会への発信
建築に対する関心は高まっているが、その捉え方はまだ限定的である。今こそ、一般向けに「空間」という建築の魅力を伝える試みは、大きな意味を持つ。本書は、平易な文体でわかりやすく執筆されているだけでなく、建築史における重要な事例を取り上げており、空間体験をきっかけとした一般教養としての建築学の価値と魅力を、ひろく社会に発信する大きな役割を果たしている。
 

(紹介文執筆者: 生産技術研究所 准教授 川添 善行 / 2016)

本の目次

軸線と迷宮 - 厳島神社と伊勢神宮
加法と乗法 - 礪波平野と竹富島
抽象と感情 - パルテノン神殿とノートル・ダム大聖堂
明示と重層 - 江川家住宅と閑谷学校
解釈と手法 - テンピエットとラウレンツィアーナ図書館
連動と受容 - 釜無川と四万十川
社会と個人 - 二条城二の丸御殿と臥龍山荘
伏臥と屹立 - 小屋平ダムと黒部ダム
未来と芸術 - ウィーン郵便貯金局とシュレーダー邸
技術と都市 - 熊本県立美術館と広島ピースセンター
保存と生業 - 内子と宇治
様式と機能 - 中央停車場と復興小学校
構築と出現 - 東大寺南大門と大谷石地下採掘場跡
瞬間と永遠 - 法隆寺西院伽藍と三仏寺投入堂
求心と遠心 - セイナッツァロ村役場と軽井沢の山荘

関連情報

東京大学 川添研究室
http://www.kwz.iis.u-tokyo.ac.jp/
 

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