東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

ミントグリーンの表紙

書籍名

中級フランス語 叙法の謎を解く

著者名

渡邊 淳也

判型など

181ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2018年5月11日

ISBN コード

9784560087725

出版社

白水社

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

叙法の謎を解く

英語版ページ指定

英語ページを見る

本書はフランス語の動詞の「叙法」(mode) をおもな対象としています。「中級フランス語」というシリーズに属する教育的著書ではありますが、わたしのこれまでの研究成果ができるだけ還元されるよう努めました。「謎を解く」という、いささか大それた題名もシリーズで決まっており、姉妹篇に井元秀剛さんによる『時制の謎を解く』、小田涼さんによる『冠詞の謎を解く』があります。

一般にヨーロッパ諸語では、叙法が、時制、態、人称などと同じく、動詞の形態論的なカテゴリーをなしています。フランス語にも直説法 (indicatif)、条件法 (conditionnel)、接続法 (subjonctif) などの叙法があり、学習者にとっても、研究者にとっても大きな難問のひとつになっています。

条件法については、ある命題が実現するか、しないかに応じて別の経過をたどる、さまざまな可能世界 (mondes possibles) へと枝わかれしてゆく時間の流れの表象、名づけて「分岐的時間」(temps ramifié) という概念を用いることにより、さまざまな用法を整合的に説明しようとしています。「分岐的時間」は、哲学者のヒンティカやクリプキを淵源とする概念ですが、小説や映画などで誰もが親しんでいる「パラレルワールド」を生み出す装置だといえば、いまではわかりやすいのではないでしょうか。

接続法については、従来一般的になされてきた、「断定を留保する特異な(有標 marqué の)叙法」という考えかたを転換して、従属節ではむしろ接続法のほうが本来的な形式であり、直説法のほうがことさらに断定を強める特異な叙法であるという、いわば「逆発想」をとることで、理解を進めようとしました。この考えかたによると、接続法は断定を担わない場合として否定的に規定されることになります。これにより、たとえば、従来はきわめて例外的とされた、「文頭のque... 節のなかの動詞は文全体の意味がどれほど断定的であっても接続法におかれる」という現象にも、一貫した説明ができます。文頭位置は主題 (thème) の位置であって、断定はまだなされていないからです。

また、本書では条件法、接続法のほか、法動詞 (verbe modal) とよばれる、叙法と同様に話者の判断をあらわす動詞群についても、条件法や接続法に関して採用した考え方を応用することで解明しています。とくに条件法を説明するときに用いた分岐的時間の概念は、時間的定位を捨象して、命題とその否定への分岐だけを考えることで、devoir, falloir, pouvoir などの法動詞がどのように真偽判断に関与するかをとらえることができます。

 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 渡邊 淳也 / 2019)

本の目次

目 次
はじめに

序 章 叙法とはなにか
1課 叙法とその周辺
コラム ロマンス語学習のすすめ

第1章 条件法
2課 条件法とはなにか
3課 条件法のさまざまな用法
4課 分岐的時間と可能世界
5課 条件法の時制的用法
6課 反実仮想の条件法
7課 反実仮想の条件法と間一髪の半過去形
8課 「他者の言説」をあらわす条件法
9課 さまざまな「他者の言説」
10課 いわゆる「語調緩和の条件法」
11課 語調緩和の条件法と語調緩和の半過去形
12課 条件法と単純未来形
コラム FIFA の謎

第2章 接続法
13課 接続法とはなにか
14課 接続法の理解を転換する
15課 文頭のQue... 節内での接続法
16課 命令や欲求、希求をあらわす用法
17課 独立節での用法
18課 真偽判断に関わる述語と接続法
19課 comprendre que +接続法・直説法
20課 走査と接続法
21課 avant que... とaprès que...
22課 虚辞のne
23課 接続法半過去形と接続法大過去形
24課 条件法過去第二形としての接続法大過去形
コラム 頻度や傾向の重要性

第3章 法動詞
25課 真偽判断に関わる法動詞
26課 devoir の用法分類と基本的意味
27課 devoir の基本的意味から各用法へ
28課 devoir とfalloir
29課 devoir, falloir と否定
30課 devoir, falloir と時制
31課 pouvoir の用法分類と基本的意味
32課 pouvoir の疑問、否定、時制
33課 必然性と可能性との関係
34課 il semble que... とil paraît que...
35課 sembler の基本的意味から各用法へ
36課 paraître の基本的意味から各用法へ
37課 aller の基本的意味と近接未来形
38課 aller の叙法的用法
39課 aller の間投詞化と慣用表現
40課 回顧と展望

索引
参考文献
 

関連情報

書評:
井上大輔 評 (日本フランス語学会『フランス語学研究』第53号 2019年)
http://www.sjlf.org/%e6%a9%9f%e9%96%a2%e8%aa%8c%e3%80%8e%e3%83%95%e3%83%a9%e3%83%b3%e3%82%b9%e8%aa%9e%e5%ad%a6%e7%a0%94%e7%a9%b6%e3%80%8f/

このページを読んだ人は、こんなページも見ています