東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に水色のハイライト

書籍名

岩波文庫 映画とは何か (上・下)

著者名

アンドレ・バザン (著)、 野崎 歓、 大原 宣久、 谷本 道昭 (訳)

判型など

(上) 370ページ、(下) 306ページ、文庫、並製

言語

日本語

発行年月日

2015年2月17日

ISBN コード

(上) 9784003357811
(下) 9784003357828

出版社

岩波書店

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

映画とは何か (上) 映画とは何か (下)

英語版ページ指定

英語ページを見る

アンドレ・バザン (1918-1958) の名は、戦後フランスを代表する映画批評家、そして、現代においても世界の映画作家に大きな影響を与え続けている映画運動「ヌーヴェル・ヴァーグ」の後見者として、映画史に刻み込まれている。バザンへの言及を含まない映画研究、映像文化論等々はすべてこれまがいものである。そう乱暴に断言したくなるほど、映画をめぐる思考におけるバザンの寄与は大きい。
 
本訳書『映画とは何か』は、<それほどまでに> 重要な映画批評家の主著 (の翻訳) である、とふたたび断言したいところだが、そうともいえない事情がある。
 
バザンの主著 Qu’est-ce que le cinéma? (映画とは何か?) は、1958年から1962年にかけて、著者没後にCerf書店から4巻本として刊行されたものである。各巻には「存在論と言語」「映画と諸芸術」「映画と社会学」「現実の美学: ネオレアリズモ」の副題が付されており、長短様々な65篇の論考が収録されている。
 
それに対して、本訳書の底本は、前述の4巻本から27篇を選抜した1975年Cerf書店刊行の一巻本アンソロジー版である。この27篇という本数は、65篇に対しては約4割、バザンが生涯に執筆、発表した記事、論考の総数約2700篇に対してはわずか1パーセントを占めるにすぎず、ジャニーヌ・バザン、フランソワ・トリュフォーの二人がアンソロジー版編纂に携わっていたとはいえ、これによってバザン批評の大枠を捉えようとする読者にとっては何とも心もとない数量であるといわざるを得ない。
 
しかし、たとえそれが <「アンドレ・バザン」の1パーセント> であるにしても、本訳書を読み進めていただければ、本数に対する不安は消えていくに違いない。そこでは、映画における現実とは何か、文学、演劇、絵画、写真といった諸芸術と映画との関係はいかなるものなのか、戦後社会において映画はいかにあるべきなのか、映画の諸ジャンルはいかにして誕生し進展していくのか、といったバザン批評を貫く根源的な問いが各所で発せられており、それらの問いは、濃密さと歯切れの良さを併せ持った文体、聡明かつ粘り強い思考によってしっかりと受け止められているからだ。
 
バザン自身による序文に記されているように、「『映画とは何か』という表題は、何らかの答えを約束する」ものではなく、「著者が自らに発し続けている問いを先取りしたもの」であり、安易な答えを求めることのないバザンの問いは、映画そのものの問いとして、映画をめぐる思考を押し広げ深めていく。あえて気取ったいい方をすれば、『映画とは何か』とは、バザン批評の <運動の記録=シネマトグラフ> なのである。
 
野崎・大原・谷本による日本語リニューアル版を是非ともお楽しみいただきたい。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 附属教養教育高度化機構初年次教育部門 准教授 谷本 道昭 / 2019)

本の目次

上巻
1 写真映像の存在論
2 完全映画の神話
3 映画と探検
4 『沈黙の世界』
5 ユロ氏と時間
6 禁じられたモンタージュ
7 映画言語の進化
8 不純な映画のために―脚色の擁護
9 『田舎司祭の日記』とロベール・ブレッソンの文体論
10 演劇と映画
11 パニョルの立場
12 絵画と映画
13 ベルクソン的映画、『ピカソ 天才の秘密』
14 『ドイツ零年』
15 『最後の休暇』
 
下巻
16 西部劇、あるいは典型的なアメリカ映画
17 西部劇の進化
18 模範的な西部劇、『七人の無頼漢』
19 『映画におけるエロティシズム』の余白に
20 映画におけるリアリズムと解放時のイタリア派
21 『揺れる大地』
22 『自転車泥棒』
23 監督としてのデ・シーカ
24 偉大な作品『ウンベルト・D』
25 『カビリアの夜』あるいはネオレアリズモの果てへの旅
26 ロッセリーニの擁護―「チネマ・ヌオーヴォ」誌編集長グイド・アリスタルコへの手紙
27 『ヨーロッパ一九五一年』
訳者解説
書籍名作品索引
映画作品名索引
人名索引
 

このページを読んだ人は、こんなページも見ています