東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

書籍名

Ebisu. Etudes japonaises 59号 Films en miroir: Quarante ans de cinéma au Japon (1980-2020) (鏡の映画たち: 日本映画の40年 (1980年~2020年))

言語

フランス語

発行年月日

2022年

ISSN コード

2189-1893

出版社

フランス国立日本研究所・日仏会館

出版社URL

書籍紹介ページ

英語版ページ指定

英語ページを見る

1980年頃、映画界は20年前に始まった変貌を遂げた。映画界を構成していたスタジオ・システムが崩壊し、新たなプレイヤーと新たな体制が誕生したのである。しかし、この時代の映画人たちは奇妙なパラドックスの犠牲となった。ビデオやデジタルツール、データベースやインターネットと同時代に生まれた彼らの映画を観るのは以前よりはるかに簡単になっているにもかかわらず、日本国外で (とりわけフランス語圏で) の研究または評価はいまだ断片的である。
 
それを鑑みて本号の目的は、1980年から2020年までの日本映画の40年間を記述し、分析することである。これは妥当な目的に思えるかもしれない。しかし、このような短い期間がいかに複雑で多様なものであるかを理解するには、もう40年間を見ることもできる。たとえばおそらく日本映画史上最もよく知られた時代である1930年から1970年までは、サイレントからトーキーへ、1930年代の黄金時代から15年間の戦争を経て1950年代の黄金時代へ、そして1960年代に崩壊する前の映画産業の統合を経験し、何世代もの映画監督を輩出した。もちろん、本号が扱っている1980年以降の40年間は、それに劣らず豊かであり、正確さやニュアンスを要求するものでもある。
 
さらに、「映画」という言葉は、私的な実践からスペクタクルな実践まで、産業 (装置産業であれ、映画製作であれ) から小規模の店舗まで、異質かつ複数の対象を指定している。その異質性は、それを理解しようとするアプローチにも見出される。映画の歴史が、多くのテクストによって理論化され、あまりにもしばしば自律的であると思われがちな複数のアプローチに分断されることによって、その対象 (したがってその研究の角度) の断片化がもたらされた。言い換えれば、映画の歴史学は、歴史学ではすでにごく一般的で、フェルナン・ブローデルによって完璧に要約された、「歴史は一つではなく、歴史家という職業も一つではなく、多くの職業があり、多くの歴史がある」という考え方に直面しているにすぎないのである。もちろん、日本の文脈もこうした理論的な問いに対する例外ではない。
 
本号もまた、日本映画の過去40年間を再考するにあたってその多元性を反映するようにデザインされており、2部構成で届ける。第1部では、この「ポスト・スタジオ」時代において、製作、配給、創作がどのように進化してきたかを考察し、第2部では、日本では欠かせない存在でありながら、海外ではほとんど論じられていない蓮實重彦をフランス語圏の読者に紹介する。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 マチュー・カペル / 2024)

本の目次

第一部・配給、制作、創造:日活ロマンポルノからネットフリックスへ
(序) 現代の日本映画界について|マチュー・カペル
日活ロマンポルノにおけるプロデューサーの役割と軌跡|ディミトリ・イアン二
抑制と過剰:三池崇史の国際映画祭への登場|トム・メス
21世紀初頭の日本のパニック映画:連続性と変化|クリス・フッド
空族、そして2000~2010年代の日本のインディペンデント映画|エレオノール・マムディアン
多中心的世界におけるプロパガンダ活動としての「自衛隊協力映画」|ファビアン・カルパントラ
動画配信サービスは日本の映画製作にどのような影響を及ぼすか|横田ラファエル
日本のインディーズ映画とネオリベラルな自主制作:MOOSIC LABをケーススタディとして|ハオ・ウェン
 
第二部・批評:蓮實「現象」
(序) 蓮實重彦、あるいは事件としての映画|マチュー・カペル
遭遇と動揺 (仏訳 ドゥヴォス・パトリック)|濱口竜介
女こどもの闘争―蓮實重彦の映画批評における観客性について (仏訳 ゼグルール・アミラ)|木下千花
「歴史的/メディア論的転回」の帰趨をめぐって―「ポストメディウム的状況」と蓮實重彦 (仏訳 デムナティ・アリア)|渡邉大輔
制度としての映画 (仏訳 マチュー・カペル)|蓮實重彦
映画と批評 (仏訳 マチュー・カペル)|蓮實重彦
映画と文学 (仏訳 マチュー・カペル)|蓮實重彦
物語、説話、そしてその言説 (仏訳 カペル・マチュー)|蓮實重彦

関連情報

Ebisu. Études japonaisesは1993年に創刊され、フランセ国立日本研究所・日仏会館が発行しているフランス語の日本研究誌で、論文、翻訳、書評などを掲載しています。現在オープンアクセスのデジタル版で、2012年第47号以降に発行された号をOpenEdition.org (https://journals.openedition.org/ebisu/) で、第1号 (1993年) から第46号 (2011年) までのバックナンバーはPersée  (http://www.persee.fr/collection/ebisu) でご覧いただけます。
 
関連イベント:
世界の中の日本映画――フランスの視点から ポストメジャースタジオ時代の日本映画 (1980―2020) を考える Films en miroir. 40 ans de cinéma japonais (1980-2020) (アテネ・フランセ文化センター 2022年6月11日~6月17日)
http://www.athenee.net/culturalcenter/program/po/postmajor.html
 
関連記事:
東大映画研究Now/マチュー・カペル「日本映画に独特の姿と形をもたらした高度経済成長期という新しいパラダイム」 (東京大学ウェブサイト 2022年4月5日)
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/z1304_00154.html

このページを読んだ人は、こんなページも見ています