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図書館の建物の写真

書籍名

東京帝国大学図書館 図書館システムと蔵書・部局・教員

著者名

河村 俊太郎

判型など

320ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2016年3月17日

ISBN コード

978-4-13-003600-9

出版社

東京大学出版会

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

東京帝国大学図書館

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活字離れ、電子ジャーナルや電子書籍の普及、そしてインターネット上の情報の爆発的な増加などが現在進んでいる、と多くの統計や研究が示しています。そういった中で、図書を中心として情報を収集、蓄積、保存、提供してきた図書館という施設、機能は本当に今後も必要なのでしょうか。本書はこういった問題意識をひとつの出発点としています。
 
これを検討するために、まず、情報の中でもひとつの極にある学問、これを専門的に扱う組織である大学の図書館、そしてその中でも日本の大学の濫觴であり、その中心であり続けていた東京帝国大学の図書館を本書は対象としていきます。この図書館を見ていくことで、ある種の日本の図書館のモデルを明らかにしようというわけです。
 
しかし、この図書館、実は大学内にいくつもの図書館 (図書「室」もあります) を抱えており、その数は東京大学となった現在でも少なくとも30はあるとされています。同じ大学の中とはいえ、背景の多様なこれらの図書館をどのように検討していけばよいのでしょうか。
 
本書ではその解答のひとつとして、各図書館に共通している存在である蔵書を見ていきます。蔵書の購入履歴を用いて1冊1冊の分類などを検討していき、こういった図書館の乱立はなぜなのか、そしてそうなったことで図書館は、そしてそこで営まれていた学問はどのようになっていったのか、を明らかにしていきます。特に、大学の図書館の中心となる館の存在がどのように位置付けられていったのかというのは、図書館だけの話でなく、大学の学問において中心となるものとはなんなのか、ということとも関わってくる問題であり、日本の学問の一つのモデルを示しているといえるでしょう。
 
以上のように本書のオリジナリティーは、図書館をまず蔵書から見ていったことです。蔵書の多くを構成する図書は、各学問に共通して存在するだけでなく、その学問内での位置づけも特権的であるなど共通した性質を持った存在です。そして、蔵書を出発点として、図書館に関わる大学の制度、管理者で利用者でもある教官とその専攻する学問、図書館の建築などを見ていくことで、本書は図書館という枠を越え、大学制度史、学問史、メディア史などを行き来するものになっています。
 
本書が属する図書館情報学という学問は、おそらくみなさんにとって聞きなれない分野だと思いますが、それがいかに広い射程を持ちうる分野であるのかについて本書を通じてお見せすることができるのではないかと思っています。東京帝国大学の教官がどのように知識を得ることが可能だったのか、大学内の他の図書館、私蔵書など情報を得る様々な場所の中で図書館を教官がどのように位置付けていたのか、そして、図書館という知識を共有する基盤と考えられるものが日本においてどのようであり、それがどのような世界を可能にしたのか、ぜひ本書を読んで確かめてみてください。
 

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 准教授 河村 俊太郎 / 2019)

本の目次

はじめに
第1章 大学制度上の東京帝国大学図書館
   1 図書購入費
   2 管理制度
   3 部局図書館の運営
第2章 文学部心理学研究室図書室
   1 心理学の動向
   2 文学部心理学研究室のインフラ
   3 心理学研究室の教員
   4 蔵書の分析
第3章 経済学部図書室
      1 経済学の動向
   2 経済学部図書室のインフラ
   3 経済学部の教員
   4 蔵書の分析
第4章 東京帝国大学附属図書館
   1 附属図書館の変遷
   2 職員
   3 蔵書の分析
第5章 図書館商議会から見た図書館システム
   1 図書館商議会の運営
   2 考察
第6章 大学図書館システムのモデルとその運営の実態
   1 大学図書館のモデル
   2 東京帝国大学のモデル
おわりに
あとがき
 

関連情報

書籍紹介:
いま東大生が「ほんき」に読むべき「ほん」[4]『東京帝国大学図書館 図書館システムと蔵書・部局・教員』 (東大新聞オンライン 2016年8月18日)
http://www.todaishimbun.org/books20160818/
 

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