東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に流線形の模様

書籍名

新・身体とシステム やわらかいロボット

著者名

新山 龍馬

判型など

192ぺージ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2018年7月30日

ISBN コード

9784760893935

出版社

金子書房

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やわらかいロボット

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ソフトロボティクスと呼ばれる新しい学術研究が、2010年頃から盛り上がってきた。「ソフト」は文字通り「柔軟」という意味である。金属製のかたいロボットのイメージをくつがえす、おもしろいロボットがたくさん登場している。しかし、その全容を解説した本は英語でも日本語でもなかった。本書『やわらかいロボット』は、ソフトロボティクスとその周辺のキーワードや基礎知識をぎゅっとまとめた1冊である。
 
ロボットになぜやわらかさが必要なのだろう? それを知るには、人間の手足や顔がなぜやわらかいのか考えてみるとよい。指の腹や手の平が硬質だったら、ものを持つときに苦労するだろう。足裏の肉や、足の甲の変形は、歩くときの衝撃をやわらげてくれる。顔がやわらかいおかげで、細やかな表情を作ることができる。やわらかさは地味だけれどなくてはならない性質だ。ロボットに人間と同じようなことをしてほしいと思ったら、やわらかさを研究する必要がある。
 
実は、やわらかいロボットを作ろうとする研究は昔から行われてきた。本書でも、現代からみればソフトロボティクス研究と言えるような、ヘビロボットや人工筋肉などの昔の研究をいくつも紹介している。最近になって、3Dプリンタを使って複雑な形のロボットを金属以外の材料で作ることができるようになってきた。また、かたさを変えられる材料、変形をシミュレーションする技術などが現れて、柔軟ロボットの研究を後押ししている。
 
もうひとつ、生物と機械の両方に興味がある人にとって、本書は大いに楽しめる内容になっているはずだ。最近話題の人工知能に、もっと人間の脳の仕組みを組み込んだらどうだろうというアイディアを持ったことはないだろうか。同じように、いろいろなロボットがあるけれど、人間や他の動物の体の仕組みをロボットに取り込めたら、もっとすごいロボットができるんじゃないかと考えたことはないだろうか? そんな発想で作られた生物型ロボットも、ソフトロボティクスの関連研究としてページを割いて紹介している。ロボティクスと生物学の接近は、知的好奇心でいっぱいの研究者の交流だ。
 
社会の中で、ロボットの活躍の場はまだまだ限定されており、ロボット研究にも新展開が期待されている。見たことも聞いたこともないロボットが、世界のどこかで今まさに誕生しようとしているかもしれない。ぜひ本書を手にとって、その一端に触れてほしい。

 

(紹介文執筆者: 情報理工学系研究科 講師 新山 龍馬 / 2020)

本の目次


まえがき

I章 やわらかいロボット

 1 ソフトロボティクス
  新しいロボット学
  三つの潮流
  生物規範型ロボット
  やわらかいロコモーション

 2 ソフトロボットの起源
  最初のロボット
  機械の中のやわらかさ
  やわらかい発想

II章 やわらかさを手にいれる

 1 ソフトマター
  柔軟材料
  ゴムおよびゲル
  空気
  スポンジとわた
  メタマテリアル

 2 やわらかさの機能
  なじむ
  はずむ
  可塑性
  生態学的機能

 3 やわらかいロボットの作り方
  型に流しこむ
  ソフトリソグラフィー
  3Dプリンタ

III章 骨のない身体

 1 身体の様式
  イモムシの液体包骨格
  ゾウ鼻の筋肉包骨格
  ヘビとミミズ
  形態と構造による計算

 2 腕と手指
  連続アーム
  宇宙ロボット
  触手
  翼とひれ

IV章 やわらかさの広がり

 1 役に立つやわらかさ
  ソフトグリッパー
  ジャミング現象
  やわらかいものを操る
  ロボットのぜい肉

 2 新しい身体
  インフレータブルロボット
  おりがみロボット
  進化ソフトロボティクス
  バイオハイブリッド

V章 動物のしなやかさ

 1 やわらかい筋肉とかたい骨格
  筋による身体運動
  骨と殻、内と外
  内骨格の起源
  筋肉の歴史
  引っ張りと圧縮
  テンセグリティ

   2 環境と呼応する筋骨格系
  身体の成り立ち
  拮抗駆動と多関節筋
  筋骨格ネットワーク
  二関節筋のはたらき
  筋腱複合体

VI章 筋骨格ロボット

 1 動物をつくる
  生物を模した機械
  アクチュエータ
  筋肉はすごい?
  人工筋肉
  並進から回転へ
  人工筋骨格系
 
   2 やわらかい制御
  ヴァーチャルソフトネス
  関節剛性の調節
  バックドライバビリティ

   3 しなやかなロボット
  跳ぶ筋骨格ロボット
  身体に埋め込まれた運動
  走る筋骨格ロボット
  速く走る方法

あとがき
謝辞 
文献

関連情報

ソフトロボティクス入門
https://elasticmindblog.com/
 
科研費新学術領域「ソフトロボット学」
http://softrobot.jp/
 
特集記事:
《SOFT ROBOTICS Collective 生命と機械の学校》 vol.01 「人工筋肉ってなんだろう Work Shop + Talk Session」レポート (MTRL 2020年1月16日)
https://mtrl.com/magazine/softl-robotics-collective-vol-01_report/
 
やわらかさと生き物をヒントに未来にジャンプするロボット博士 | 新山龍馬| UTokyo 30s No.7 (東京大学ホームぺージ 2019年11月12日)
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/z1304_00041.html
 
ロボットに足りない要素は“モチベーション”や“エモーション” (ニュースイッチ 2019年9月26日)
https://newswitch.jp/p/19367
 
WIRED FEATURE: DEGITAL WELL-BEING
新山龍馬 ロボットとの共生は「やわらかさ」から始まる:「ロボット、動物、あらたなる自然との共生」(1) (WIRED 2019年3月27日)
https://wired.jp/2019/03/27/future-coexistence-of-robots-animals-and-nature-1/
 
【科学】人と共存「やわらかロボット」 しなやかに進化、介護・災害で活用へ (THE SANKEI NEWS 産経新聞 2018年8月27日)
https://www.sankei.com/life/news/180827/lif1808270015-n1.html
 
テレビ出演/動画配信:
<アンコール>ソフトロボティクスの世界 やわらかさを目指す最新ロボット研究 (BSフジ ガリレオX 2018年10月7日)
http://web-wac.co.jp/program/galileo_x/gx181007
 
新山 龍馬 (Ryuma Niiyama, 東京大学 情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 講師)/このロボットがすごい2015 (このロボットがすごい! 2015年9月16日)
https://www.youtube.com/watch?v=CbRBYSDHgUA
 
書評:
森山和道 評 (『S-Fマガジン』 2018年10月号)
https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000013968/shurui_71_SFM/page1/order/
 
講演/セミナー/シンポジウム:
新学術領域合同シンポジウム-ソフトロボット学と発動分子科学の境界- (2020年11月4日)
https://www.biophys.jp/news/lib/newsshow.php/4801
 
第38回日本ロボット学会学術講演会 (2020年10月9日-11日)
https://ac.rsj-web.org/2020/os.html
 
《SOFT ROBOTICS Collective 生命と機械の学校》 vol.01 「人工筋肉ってなんだろう -Talk Session-」 (2019年12月14日)
https://softl-robotics-collective-vol-01-talk.peatix.com/?lang=ja
 
日本ロボット学会 第 101 回 ロボット工学セミナー 実施報告書
やわらかいロボット、やわらかいデバイス~ソフト・ロボティクス入門~ (東京大学本郷キャンパス工学部 2016年10月7日)
https://www.rsj.or.jp/content/files/event/seminar/2016/Report/S101.pdf
 
第64回応用物理学会春季学術講演会 有機分子・バイオエレクトロニクス分科会企画 柔らかい材料を利用したソフトロボット~材料・エレクトロニクス・機械分野の融合を目指して~ (パシフィコ横浜 2016年3月15日)
https://meeting.jsap.or.jp/archive/jsap2017s/file/symposium_15_12-1.pdf

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