東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

記録映画の写真9枚

書籍名

記録映画アーカイブ 3 戦後史の切断面 公害・若者たちの叛乱・大阪万博

判型など

320ページ、A5判、DVD付属

言語

日本語

発行年月日

2018年7月17日

ISBN コード

978-4-13-003252-0

出版社

東京大学出版会

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書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

戦後史の切断面

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これまで日本では数多くの記録映画が作られてきました。人々の生活や暮らしを描いた文化映画や教育映画から、日本の産業や科学技術の発展を描いたPR映画にいたるまで、その分野は多岐にわたります。これらの記録映画 (教育映画、文化映画、科学映画、PR映画、ドキュメンタリー映画など様々なタイプの短編映画の総称) は、時代を映し出す鏡であり、歴史を生き生きと次世代に伝える貴重な文化遺産です。
 
しかし、いま多くの記録映画が散逸・消失の危機にさらされています。これらのフィルムのほとんどは、適正な保存環境とはいえない事務所内や常温倉庫に保管されており、急速に劣化が進みつつあります。また製作会社の倒産や解散により、フィルムの廃棄や散逸もはじまっています。一度失われてしまえば二度と見ることができない貴重な記録が消え去ろうとしています。
 
こうした状況に危機感をもった研究者や製作会社OB、アーカイブの関係者が集まり、2008年にスタートしたのが記録映画アーカイブ・プロジェクト (共同代表: 丹羽美之・吉見俊哉) です。このプロジェクトの目的は、散逸や消失の危機にある貴重な記録映画を体系的に収集・保存し、それらを用いた多様な研究・教育の可能性を探ることにあります。
 
記録映画アーカイブ・プロジェクトは、これまで数多くのシンポジウムやワークショップを開催し、大きな反響を呼んできました。本書は『記録映画アーカイブ1 岩波映画の1億フレーム』(2012)、『記録映画アーカイブ2 戦後復興から高度成長へ 民主教育・東京オリンピック・原子力発電』(2014) に続き、その活動の成果をまとめたシリーズの第3巻です。
 
シリーズの完結編となる本書では、戦後日本の転換点となった公害、若者たちの叛乱、大阪万博を記録映画から読み解いています。付属のDVDには、公害や大学闘争を捉えた記録映画、大阪万博のパビリオン内で上映された展示映像、岩波映画を通して戦後の記録映画の歴史をたどるオリジナル作品『夢と憂鬱』など、貴重な記録映画7本が初収録されています。
 
本シリーズは書籍とDVDがセットになっており、実際に記録映画を見ながら戦後日本の歩みをたどれるようになっています。この画期的なシリーズがきっかけとなって、貴重な記録映画の保存と活用がさらに進んで行くことを願っています。メディア史や映画史に興味のある方々はもちろんのこと、戦後日本の歴史や社会、アーカイブに関心のある方々にも幅広く手にとってもらいたいシリーズです。
 

(紹介文執筆者: 情報学環 准教授 丹羽 美之 / 2019)

本の目次

序章 戦後史の切断面 (丹羽美之)
 
第1部 映画のなかの公害
第1章 『水俣の子は生きている』(土本典昭)
第2章 〈不活動〉との共同――土本典昭『水俣の子は生きている』(1965年) (中村秀之)
第3章 問いと指差し――神馬亥佐雄と『汚水カルテ』の映像試論 (角田拓也)
第4章 公害と記録映画――大気汚染から放射能汚染まで (鳥羽耕史)
 
第2部 1968・若者たちの叛乱
第5章 <映画のビラ> シネトラクト運動――岩波映画労働組合とその周辺 (井坂能行)
第6章 日大闘争とグループびじょん (北村隆子)
第7章 叛乱の時代 (長崎 浩)
第8章 68年と映像 (筒井武文)
 
第3部 万博とアヴァンギャルド
第9章 記録映画から展示映像へ (坂口 康)
第10章 『1日240時間』と安部公房・勅使河原宏 (友田義行)
第11章 パビリオンから見た大阪万博 (暮沢剛巳)
第12章 大阪万博と記録映画の終わり――成長の時代と言葉の敗北をめぐって (吉見俊哉)
 
終章 記録映画保存センターの活動成果と今後の課題 (村山英世)
 
DVD収録作品
『汚水カルテ』(1977年、24分)
『おきなわ 日本1968』(1968年、8分)
『'69・6・15』(1969年、10分)
『死者よ来たりて我が退路を断て』(1969年、64分)
『希望 光と人間たち』(1970年、18分)
『1日240時間』(1970年、10分 *ダイジェスト版)
『夢と憂鬱 吉野馨治と岩波映画』(2011年、122分)
 

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