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6人の留学生のイラスト

書籍名

キャンパスの国際化と留学生相談 多様性に対応した学生支援サービスの構築

著者名

大西 晶子

判型など

288ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2016年9月26日

ISBN コード

978-4-13-011144-7

出版社

東京大学出版会

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キャンパスの国際化と留学生相談

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大学の国際化に対して、人々が持つイメージは非常に多様であり、「国際的な大学」が何を意味するのか、広く共有された定義はありません。そうした中で本書は、「国際的な大学に備わっておくべき、学生支援の仕組みとは?」という、筆者自身の自問自答を起点として、国際化を遂げようとする今日の大学の課題を学生支援の側面から検討したものです。
 
本書ではまず、日本における留学生政策のこれまでの展開を整理し、歴史的流れの中で現在の課題を検討し、今日の大学の国際化推進施策の問題点を明らかにします。そこから見えてくるのは、留学生の積極的な受け入れが国策と連動しながら進められる一方で、数的拡大の当然の帰結である学生の多様化に対しては、支援の仕組みが十分に整えられていない状況です。国や大学は、留学生を受け入れる目的の一つとして、多様で異質な視点を持つ留学生が、大学の国際化を加速させることを上げていますが、多様な声を聴き、変化に向けた議論を行う場や仕組みが十分に整っているとはいえません。
 
本書は続いて、実践と調査研究を踏まえながら、留学生が多く学ぶ大学において、どのような学生支援サービスが必要とされているのかを検討していきます。実践研究を通じて示されるのは、留学生の集団内の多様性と、彼らの支援ニーズが、キャンパスを取り巻く状況の変化を背景に、短期間で大きく変容している状況です。そのため、学生支援サービスが有効なものであるためには、継続的にニーズを把握し、変化に対応していく仕組みが求められます。
 
調査研究と実践を連動させながら実践を改善していく本書で用いた手法は、ニーズが多様化する社会において支援やサービスを考えていく際に欠かせない方法です。ただし留学生をはじめとする、文化的・数的少数者のニーズを的確に把握していくためには、方法論的な課題も存在しており、本書では、そうした文化的に適切な研究についての考察も行っています。
 
本書は、学生支援の役割として、留学生個人の日本の大学への適応の支援だけではなく、多様な学生の存在を前提とした場へと大学が変容することを後押しすることが求められることを強調しています。さらに、こうした機能を学生支援が果たすためには、大学コミュニティにおいて、組織的次元の本質的変化の必要性が理解され、変化に向けた動きが組織的サポートを得ていくことが不可欠であることを、繰り返し指摘しています。
 
本書を手に取る学生の皆さんの多くは、日本の社会で生まれ育ち、文化的言語的にも多数派に属する方たちでしょう。皆さんが日常を見つめる視点が少し広がるきっかけに本書がなり、多様性を尊重し、異質さを排除しない大学、つまりは「国際的な大学」の実現に向けた力となってくださることを、期待しています。
 

(紹介文執筆者: 相談支援研究開発センター 准教授 大西 晶子 / 2019)

本の目次

第1章 大学の国際化と学生支援の課題
第2章 日本の留学生受け入れと留学生支援の展開
第3章 留学生支援の拡充に向けた研究の動向
第4章 学生相談の中の留学生相談
第5章 学生相談従事者からみた留学生
第6章 なぜ留学生は学生支援サービスを利用しないか
第7章 留学生支援サービスの実践事例
第8章  留学生と学生支援サービスをつなぐ視点
第9章  多様性に対応した学生支援サービスの姿
第10章  キャンパスの国際化とは何か
 

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