東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

ライトグリーンとグリーンの表紙

書籍名

学生相談・学生支援のための事例ガイドブック

著者名

東大エキスパートコンセンサス事例研究会

判型など

73ページ、読み上げ機能

言語

日本語

発行年月日

2023年2月28日

ISBN コード

978-4-905438-12-0

出版社

東京大学相談支援研究開発センター、インターパブリカ

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大学生の多くは10代後半から20代です。この年代の若者は「自分は何者か」「何をしたいのか」といった問いに向き合い、自身の価値観や信念を形成し、人生の方向性を見出そうとします。同時に、親の庇護から自立への移行を準備します。親からの心理的・経済的独立を目指しながらも、完全な自立には至らない中間的な状態にあるため、そのバランスを生き抜くことが求められます。また、心理面の成熟が進む一方で、自己評価が不安定になりやすく、劣等感や優越感の間を揺れ動くことは希でなく、より現実的で安定した自己概念を形成することも課題となるでしょう。
 
加えて、精神疾患の発症も無視することはできません。そもそも日本では一生涯のうちに、少なく見積もっても5人に1人は精神疾患に罹患すると考えられています。精神疾患が日常生活や社会生活に及ぼす影響は、10代から著しく増加し20代はさらに高い割合となります。そして精神疾患に罹患している人は、4分の3が20代半ばまで、つまり大学生年代に発症していると推定されています。パニック症などの不安症やうつ病、双極性障害、統合失調症などに留意する必要があり、学生支援では見逃してはならないポイントです。

大学生は、様々な状況で困難に直面することがあります。本書は、そのような様々な困難な状況で、我々支援者がどのような理由から何を選択したらよいか考えるための手掛かりをまとめたものです。東京大学相談支援研究開発センターの心理士や精神科医等のメンタルヘルスケア支援の専門家が定期的に開いている研究会での議論をもとに、各スタッフが分担執筆しました。この研究会では、学生の生活に関わる困難な状況を各回1つずつ選び、状況を改善するための選択肢をいくつか設定したうえで、どのような場合にどの選択肢が最も適切かを議論しました。検討する問題は、多くの学生に見られる一般的問題から、自殺のリスクといった深刻な問題まで幅広く選びました。議論にあたっては、症状や病状といった健康状態のほか、家族との関係、経済状況、成績や単位取得状況、研究の進捗状況、就職の可能性といった各学生の背景の違いを考え、その違いごとに とるべき選択肢についても出来るだけ検討するようにしました。なお、学生のかかえる問題は、通っている学校によって、学年や所属する分野によって様々に異なる可能性がありますが、本書では、そのような違いを超えて、できるだけ多くの学生に共通して見られる問題を選んで検討しました。また学校によって相談や支援を担当するスタッフは、精神科医や心理師などの専門家から一般の事務職員まで様々と思いますが、どのような職種のスタッフにもできるだけ役立つ記述内容となるよう努めています。

本書は本来は支援者向けのものですが、学生の皆さんの目に触れることで、我々がどのようなことを考えて取り組んでいるのか、その一端を知って頂くことには意味があると思っています。困り事に向き合ったり、あるいは具体的に解決する際に、専門家がどのように考えているかを共有した上で、お互いに話しができれば良いでしょう。
 

(紹介文執筆者: 相談支援研究開発センター 副センター長・教授 渡辺 慶一郎 / 2024)

本の目次

第1章 はじめに
 
第2章 総論
 
第3章 模擬事例と解説
 
・第1節 家族との連携
【模擬事例】,留学生対応のポイント〈家族との連携〉
・第2節 復学への支援/調整
【模擬事例】,留学生対応のポイント〈復学への支援/調整〉
・第3節 自殺リスク対応
【模擬事例】,留学生対応のポイント〈自殺リスク対応〉
・第4節 高大連携と修学支援
【模擬事例】,留学生対応のポイント〈高大連携と修学支援〉
・第5節 就労支援
【模擬事例】,留学生対応のポイント〈就労支援〉
・第6節 外部機関へのつなぎ方
【模擬事例】,留学生対応のポイント〈外部機関へのつなぎ方〉
・第7節 相談員が対応に困る事例
【模擬事例】,留学生対応のポイント〈相談員が対応に困る事例〉
 
第4章 留学生対応〈概論〉
 
第5章 まとめ
 
 
監修・編集(以下、東京大学相談支援研究開発センター所属)
佐々木 司
(元副センター長/東京大学教育学研究科 教授)
渡辺慶一郎
(副センター長/総合窓口 教授)
編集協力
小佐野重利
(元センタ―長/東京大学名誉教授)
編集委員
榎本眞理子
(学生相談所/ピアサポートルーム 講師)
川瀬英理
(コミュニケーション・サポートルーム 助教)
 
執筆者:五十音順
荒井穂菜美、伊藤圭子、伊藤理紗稲井 彩榎本眞理子大島紀人大塚 尚大西晶子落合舞子鬼塚淳子梶 奈美子川瀬英理佐々木 司澤田欣吾高野 明多田真理子、綱島三恵、西村文親原田麻里子藤原祥子横山孝行若杉美樹渡辺慶一郎
 

関連情報

学生相談・学生支援のための事例ガイドブック (eBook)
https://dcs.adm.u-tokyo.ac.jp/outline/resouces/

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