東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

黄色と灰色の手書き風イラスト

書籍名

大学生のストレスマネジメント 自助の力と援助の力

著者名

齋藤 憲司、 石垣 琢麿、 高野 明

判型など

240ページ、四六判、並製カバー付き

言語

日本語

発行年月日

2020年4月

ISBN コード

978-4-641-17456-6

出版社

有斐閣

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大学生のストレスマネジメント

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大学での学生相談の話をすると「大学生にストレスなんてあるの?」と真顔で聞いてくる一般社会人はたくさんいる。いったん社会に出てしまうと社会人としてのストレスが記憶を塗り替えてしまい、大学時代には夢のような時間だけがあったという幻想が生まれるのかもしれない。実際には、ほとんどの社会人が学生時代にそれなりのストレスを抱えて、何とかしようともがいていたはずだ。ストレスの一部は成長のための必須課題でもあるし、だれにも相談しなくても乗り越えられたかもしれない。しかし、当事者である学生にとってはひどくつらいこともあるし、結論や答えが見つからないことも多いので、うつ状態になったり、漠然とした不安にさいなまれたりすることもある。
 
本書の読者として想定したのは、大学に在籍しており、まさに今、大学という教育組織や青年期という発達段階に絡むさまざまなストレスに毎日さらされている人たちである。読者にはまず、何がストレスになるのかをよく知ってもらいたい。本書では章をできるだけ細かく分けて、ストレスを感じる場面や対象を具体的に想像できるようにした。活動範囲が広がり、多くの人たちと会うことになる大学生には、刺激的で面白い体験も増えるが、リスクも増える。入学、進級、就職活動などを契機に、いったん立ち止まって、これからとこの先を考えるために本書を役立たせてもらいたい。また、ストレスにどのように立ち向かうのか、つまり適切なストレス対処法についても本書から学ぶことができる。ただし、何が適切な対処法かは問題の質や個人の特性によって異なるので、各章の「こころの柔らかワーク」をtipsとしていろいろ試してもらいたい。また、本書の最終章で述べられているように、個人によるストレス対処よりも、だれかと支えあう関係を構築することの方がストレスへの対処法として重要になる局面もあるだろう。
 
筆者らの活動の学問的支柱であり、心理的ストレスやストレスマネジメントなどを研究する領域のひとつが臨床心理学である。そのため本書には臨床心理学的な要素が随所に反映されているが、友人、恋人、家族、教職員、アルバイト先の人たちなどとのかかわりのなかで、人は青年期にどのように成長するのかという発達心理学的な視点も大切にしながら執筆した。したがって、大学生の体験に即した臨床心理学や発達心理学の入門書として本書をとらえることもできる。
 
しかしながら、心理学にはまだ不明確な領域も多い。そのひとつが2020年のCOVID-19による心理的影響である。筆者が脱稿した2019年には翌年の事態を予測することができなかった。しかし、どのような事態にも本書で解説されている知識は応用できるはずである。読者が本書を通じて、COVID-19だけでなく将来のストレス全般へのレジリエンス (自己回復力) のヒントを得られることを期待している。

 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 石垣 琢麿 / 2020)

本の目次

序 章 大学生活で抱えるストレス(齋藤憲司)
第1章 新しい生活に入る(石垣琢麿)
第2章 学習・勉強とストレス(齋藤憲司)
第3章 課外活動・学外でのトラブル(高野 明)
第4章 友人関係とストレス(齋藤憲司)
第5章 親とどうつきあうか(石垣琢麿)
第6章 恋愛と性をめぐるストレス(高野 明)
第7章 SNS/ゲームとのつきあい方(高野 明)
第8章 非常時!(石垣琢麿)
第9章 喪失を超えて(齋藤憲司)
第10章 将来どうする?(石垣琢麿)
終 章 支えあう関係へ(高野 明)

 

関連情報

書評:
宮崎圭子 (跡見学園女子大学教授) 評 (『心理臨床学研究』38巻3号 2020年)
https://www.ajcp.info/?page_id=159
 
奥野光 (二松學舍大学学生相談室) 評 (『臨床心理学』第20巻5号 2020年9月)
https://www.kongoshuppan.co.jp/book/b528568.html
 
福田真也 (明治大学学生相談室) 評「BOOKS ほんとの対話」 (『こころの科学』通巻213号 2020年9月)
https://www.nippyo.co.jp/shop/magazine/8349.html
 
サトウタツヤ (立命館大学総合心理学部教授) 評「大学生と接する全ての方が目を通してみてほしい」 (有斐閣『書斎の窓』 2020年7月号)
http://www.yuhikaku.co.jp/shosai_mado/2007/HTML5/index.html#/page/40
 
早坂浩志 評 (『学生相談研究』第40巻1号 2020年7月)
https://www.gakuseisodan.com/?page_id=29

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