Politics in Asia Series Japan’s Security and Economic Dependence on China and the United States Cool Politics, Lukewarm Economics
206ページ、ハードカバー
英語
2018年
9781138120105
Routledge
本書は日本の経済外交について、安全保障と経済の交錯の視点から考察したものである。日本の経済外交について研究書や論文は数多く出版されており、その中で独創性を出すのは決して容易ではないが、経済と安全保障の交錯の観点から考察したものは意外に少ないことに気づいたことから、最近の事例を例として使い研究を行った。その成果が本書である。
まず現状認識として、「東アジアのパラドクス」という概念を提示した。これは2000年代初頭によく使われた「政冷経熱」という言葉をもう少し学術的に言い表したものである。東アジアは、政治的にはかなり緊張関係があるものの、それにもかかわらず、経済的な相互依存は飛躍的に高まっているのを逆説的であると捉えられたからである。
国際関係理論にはリアリズムとリベラリズムという2つの大きな理論体系が存在するが、リアリズムは、国際関係では安全が低く経済相互依存も低い状態が普通であると予測するのに対し、リベラリズムはそれだけではなく、安全も高く経済相互依存も同時に高いという状態もあると予測する。このため、本書は前者の状況をリアリズム的均衡、後者をリベラリズム的均衡と呼ぶ。しかし、上記の通り、東アジアは安全が低く経済的相互依存が高いため、リアリズムもリベラリズムも想定していない逆説的状況にあるということになる。
著者は、このパズルを解くため、両者の均衡から乖離を引き起こすような要因がいくつか存在するのではないかと思い、考えうるすべての要素を列挙した。これが本書の最大の理論的貢献である。残念ながら、すべてを解説することはできないが、うち3つについて解説しよう。
1つはエコノミック・ステートクラフトと呼ばれるもので、安全保障の水準を高めることを目的として、経済的相互依存状態を人為的に作りだすものである。これにより、リアリズム均衡からの乖離が達成される。
2つ目はハーシュマン効果と呼ばれるもので、経済的相互依存が高い状態にあると、少なくとも一方の側に経済的脆弱性が現れ、それを政治的に利用しようというインセンティブが働くことを指す。
最後に、ウォルツ効果というものもある。これは経済的相互依存が高くなると、それにより経済紛争が起き、それがエスカレートすると、安全保障的な紛争にも発展することである。
本書の後半では、2010年のレアアース禁輸事件はハーシュマン効果の一例であり、日本のシェールガス輸入と環太平洋パートナーシップ協定 (TPP) 締結はエコノミック・ステートクラフトの例であることが明らかにされる。本書が発行された時点では明らかでなかったが、トランプ政権期の米中関係悪化は最後のウォルツ効果の例ではなかろうか。今後の検討が必要である。
(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 飯田 敬輔 / 2020)
本の目次
Tables
Japanese and Asian Terms and Conventions
List of Abbreviations
Preface
Acknowledgments
Chapter 1: The East Asian Paradox
Chapter 2: Insecurity and Economic Interdependence in East Asia
Chapter 3: Rare Earth: China’s Economic Coercion and the Demise of Chinese Monopoly
Chapter 4: Shale Gas and Oil: Japan’s Quest for Alternative Sources of Energy
Chapter 5: Trade Agreements as Geo-economic Instruments
Chapter 6: Japanese Investment in China and ‘China-Plus-One’
Chapter 7: Conclusions
BIBLIOGRAPHY
INDEX