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書籍名

基点としての戦後 政治思想史と現代

著者名

苅部 直

判型など

356ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2020年2月14日

ISBN コード

978-4-8051-1184-0

出版社

千倉書房

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基点としての戦後

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近代・現代の日本における政治思想を扱った文章を集めた論文集である。もっとも時代の古い思想としては福澤諭吉を扱い、もっとも新しいテーマとしては2015年の安保法制に関する論争や、2016年の天皇の退位宣言をめぐる動向を論じた文章を収めている。
 
この分野になじみのない読者は、第5章「遊覧・もうひとつの現代史」から読み始めるのがいいかもしれない。主に東京周辺の地域に関する、歴史紀行の短い文章を集めたものであるが、現在の風景からさかのぼって、過去の時代のようすを想像するやり方にふれることで、この本に収められた思想史研究の論文を理解しやすくなるだろう。第II部「思想史の空間」には、福澤諭吉・吉野作造・和辻哲郎といった有名な思想家に関する、いわばオーソドックスな手法の思想史研究の論文が収められている。
 
そして第II部の後半には皇室制度をめぐる研究・評論があり、第III部には戦後の平和思想の歴史と、現代における集団的自衛権をめぐる論考を収めている。いずれも現在における最新の政治上のトピックスを、思想史の展開のなかに位置づけ、新しい角度から再検討しようと試みた仕事である。
 
以上とりあげたものに比べると、第I部「政治とフィクション」は、政治のいわば原理をめぐる考察に、より近い文章を集めたものと言ってよいだろう。近現代日本の思想に限らず、およそ政治思想に特有の思考様式を伝えたいと考えながら書いた文章が、第I部には収録されている。この諸論文は、近現代の日本の思想に興味のある読者、いま直面する政治問題について、表面的な解説で満足するのではなく、原理にさかのぼって考えたい。そう考えている読者に、気に入っていただけるのではないかと思われる。

 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 苅部 直 / 2020)

本の目次

第I部 政治とフィクション
    第1章 政治と非政治
    第2章  フィクションと自由――伊藤整における「近代日本」への問い
    第3章  「遊び」とデモクラシー ――南原繁と丸山眞男の大学教育論
    第4章  技術・美・政治――三木清と中井正一
 
第II部 思想史の空間
    第5章  遊覧・もうひとつの現代史
    第6章  福澤諭吉における「公徳」――『文明論之概略』第6章をめぐって
    第7章  「憲政の本義」の百年――吉野作造デモクラシー論集によせて
    第8章  二十世紀の『論語』――和辻哲郎『孔子』をめぐる考察
    第9章  日本の思想と憲法――皇室制度をめぐって
    第10章 「象徴」はどこへゆくのか
    補論 「象徴天皇」宣言の波紋
 
第III部 世界のなかの戦後日本
   第11章 戦後の平和思想と憲法
 第12章 「国連中心主義」の起源――国際連合と横田喜三郎
 第13章 「現実主義者」の誕生――高坂正堯の出発
 第14章 未完の対論――坂本義和・高坂正堯論争を読む
 第15章 「右傾化」のまぼろしーー現代日本にみる国際主義と排外主義

 

関連情報

書評:
新著の余録 苅部直さん 「基点としての戦後」 国際社会での行動原則を (中部経済新聞 2020年5月9日)
https://www.chukei-news.co.jp/news/2020/05/09/OK0002005090b01_01/
 
『基点としての戦後 政治思想史と現代』苅部直 著 (産経新聞 THE SANKEI NEWS 2020年4月19日)
https://www.sankei.com/article/20200419-AHVO73VZ4FJ6TEBR5PVZ4RTUQA/
 
中沢孝夫 (福井県立大学名誉教授) 評「戦後の言論を総点検した労作、時を経ても輝く論客は?」 (週刊東洋経済 2020年4月18日)
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/23422

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