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白と緑、赤の表紙

書籍名

演習ノートシリーズ 憲法演習ノート <第2版> 憲法をたのしむ21問

判型など

466ページ、A5判、並製

言語

日本語

発行年月日

2020年4月

ISBN コード

978-4-335-35825-8

出版社

弘文堂

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書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

憲法演習ノート <第2版>

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この紹介文をお読み頂く前に、本書で私が担当した章のタイトルをお示ししよう。どんなことが書かれているか、推測していただけるだろうか?
 「オトコもつらいよ」
 「タヌキな裁判官」
 
本書は、司法試験をはじめとする法学の論述式試験の教材として定評ある「演習ノートシリーズ」の一冊である。法学ではどのように学習の達成度を測るのか、平たく言えば法学の試験ってどんなものなのかと思われる方も多いので、少しご紹介しておきたい。
 
法学部というと分厚い六法を暗記させられるかのような誤解があるが (高校の進路指導の教諭がそのように言って法学部への進学を諦めさせることもあると聞く。とんでもない話である)、優れた法律家であっても、膨大な量の法令を記憶し切れるものではない。むしろ現実の法学部の講義は、基本的な概念や原理原則を教えるとともに、それらを駆使して千変万化する現実の紛争をいかに適切に解決するか、思考力・応用力を鍛えている。そのことに相応して、法学部の期末試験はもちろん、法科大学院入試や司法試験も、受験者が見たことのない、架空の具体的事件を示して、まとまった論述による回答を求めるのが通常である。
 
やや前置きが長くなったが、本書を含む法学の演習書は、具体的事例と、それを検討する素材となる条文や判例、学説などを紹介して、どのような点を立ち入って検討すべきかを解説するものである。事例をどのように作り込むかに、演習書の (そして、作題一般の) 妙はあるといってよい。
 
「演習ノートシリーズ」は、物語性の高い長文の事例を設定し、読者がそれに解答を与えようとする過程で、教科書や授業で学んだ法学の基本的な知識や理解に、新たな気づきが得られるよう仕掛けを凝らしている。本書も、憲法分野の有名な判例を踏まえながら、同世代の執筆者が議論を重ねて、訊ねたい論点を特定し、それに合わせて事例を作り込んでいった。今から振り返ると、「遊び」が過ぎて、キャラの設定や会話で盛り込みすぎた部分も残っているくらいである。
 
もちろん、解説はオーソドックスな判例の理解や学説を基礎に、紛争を適切に解決するための観点を、標準的な法学部生を念頭に、詳しく解説している。法学部の教員があまりやりたがらないことだが、答案例 (模範答案、ではない) を示して、論理的であると同時に様々な価値に目配せして妥当な解決を説得的に示すための法的な文書のあり方も、自分たちで示して見せたつもりである。
 
もしご関心があれば、例えば「オトコもつらいよ」「タヌキな裁判官」のそれぞれでどのような紛争が起きているのか、それが憲法学によってどのような問題として表現されているのか、覗いてみてほしい。そして腕に自信のある学生は、筆者自身が示した答案例を、採点してみて頂きたい。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 宍戸 常寿 / 2021)

本の目次

1.17歳、一人だけの反乱[西村裕一]
2.憲法改正の阻止は公務員の義務?[横大道聡]
3.オトコもつらいよ[宍戸常寿]
4.かわいいは正義[柴田憲司]
5.見ないで!?[大河内美紀]
6.二十二の春の悲劇[大河内美紀]
7.出たかった卒業式[横大道聡]
8.テロの記憶[村山健太郎]
9.芸術の名において[横大道聡]
10.基地のある街[村山健太郎]
11.弱き者、汝の名は男なり[齊藤 愛]
12.逃亡の果てに[西村裕一]
13.B准教授の生活と意見とため息[齊藤 愛]
14.逢ってみないとわからない[松本哲治]
15.リスク管理のリスク[齊藤 愛]
16.車を借りると生活保護は廃止?[柴田憲司]
17.投票させない方がマシ!?[松本哲治]
18.天国に行ったワンコ[村山健太郎]
19.タヌキな裁判官[宍戸常寿]
20.一寸先は……?[西村裕一]
21.パパには長生きしてほしかった (泣)[大河内美紀]
【事項索引・判例索引】
 

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