東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

真っ白の表紙に題字のタイポグラフィ

書籍名

まちを再生する公共デザイン インフラ・景観・地域戦略をつなぐ思考と実践

著者名

山口 敬太、 福島 秀哉、 西村 亮彦 (編著)

判型など

240ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2019年6月10日

ISBN コード

978-4-7615-3245-1

出版社

学芸出版社

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

まちを再生する公共デザイン

英語版ページ指定

英語ページを見る

本書は、日々の暮らしを支えるインフラ(社会基盤)に関する学問を扱う土木工学・社会基盤学の中でも、景観工学を基礎に発展してきた景観デザイン分野(景観研究や土木デザイン)を専門とする3名が企画・編集した。景観(Landscape)とは単なる化粧や意匠のことではなく、本来様々な要素の関係性の上に浮かび上がるある状態の「見え」のことを指す。景観工学とは、都市や自然の「全体の眺め」としての景観に関わる様々な行為・事象を統合的に扱うことで、細分化した各専門分野をつなぎ、生活や文化、インフラ(社会基盤)に関わる多様な課題の総合的かつ創造的解決を目指す学問である。工学として課題解決を志向する点は共通するが、地盤、材料、河川、海岸、交通などの特定の対象を扱う他の土木工学分野と異なり、人や社会、その基盤となる環境やインフラの間にある関係性のあり方を学問対象の中心に据え、これらの良い関係の創造によって多様な課題の総合的課題を目指すところに特徴がある。また課題解決に向けた公共施設や公共空間などインフラのデザインや公共分野のマネジメントも専門とし、インフラ(社会基盤)を扱う多くのデザイナー、プランナーを輩出してきた。
 
景観デザイン分野は一貫して市民や社会のニーズに対応するかたちで発展してきたが、近年では様々な地域課題の深刻化により公共施設や公共空間に求められるニーズは地域ごとに多様化し、インフラに関わる地域の経済や社会、文化のあり方をより広く視野に入れた上での創造的な課題解決が求められている。その結果各地域の現場では、地域のヴィジョンを描き、インフラのデザインと公共事業を軸に地域課題の総合的解決に取り組む新たなデザインや地域づくり、まちづくりの取り組みが現れ始めている。本書はこれらの新たな取り組みを「公共デザイン」と名づけ、その枠組みと具体の事例を提示し、公共デザインの可能性や現状の課題を論じている。本書に記された多様な事例が示すように、これからの景観デザイン分野には、地域再生に向けた総合戦略、公共事業の柔軟な推進とマネジメント、地域との協働の場所づくりに向けた空間デザインやプログラムデザインなどを通して、具体的な課題群を連動的に解決する高度な専門知としての役割が期待されている。しかし各取り組みは未だその端緒についたばかりであり、その担い手はまだまだ不足している。本書が世代を問わず多くの人に読まれ、それをきっかけにインフラ(社会基盤)に関わるデザインや地域づくり、まちづくりに関心を寄せていただければ幸いである。

 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 助教 福島 秀哉 / 2020)

本の目次

はじめに
 
1章 公共デザインのかたち
1. 土木デザインから公共デザインへ 福島秀哉
2. 景観を手がかりとした公共分野のデザインとマネジメント 山口敬太
3. 公共デザインを支えるデザイン行政 西村亮彦
 
2章 公共デザインのフロンティア
1. 居場所としての公共空間のデザイン 長谷川浩己
2. 公共デザインのなかの土木デザイン 星野裕司
3. 地方都市を再生する公共デザインの力 柴田久
4. 法律・計画・事業を結ぶ景観計画とアーバンデザイン 宮脇勝
5. 景観・まちづくりの計画制度による公共デザインの質の担保 脇坂隆一
6. 公共空間の再生をマネジメントする地方自治体の役割 新屋千樹
 
3章 公共デザインの実践
1. 兵庫県|姫路市 対話でつくる駅前の賑わいと都市軸景観―姫路駅周辺と公共空間デザインの展開 八木弘毅
2. 愛媛県|松山市花園町 「街の庭」をもつ街路 ―花園町通りの道路空間改変 吉谷崇
3. 福岡県|太宰府市 みんなで創る門前町の景観と歴史のまちづくり―部局横断的マネジメントと官民協働による太宰府歴史地区再生 中島恒次郎
4. 東京都|小金井市中町・東町 人と生き物の関わりを再生する市民主導の里づくり―野川の原風景を取り戻す自然再生事業 奥田好一
5. 熊本県|上益城郡山都町 生業と誇りの継承へ、農と流水の営みをデザインする―重要文化的景観・通潤用水下井手水路の改修 西山穏
6. 熊本県|阿蘇郡南小国町 温泉地の情緒をつなぐ小さな整備の連鎖的展開―黒川温泉の風景をつくる植樹活動と公共事業 德永哲
7. 山梨県|南都留郡山中湖村 地域の源流を読み、ツボを押さえるデザイン戦略―暮らしと風景をつなぐ山中湖村の地域拠点整備 安仁屋宗太
8. 宮崎県|日南市 まちの価値をリニューアルする市民×行政の地域活動づくり―油津商店街を再生する立体的体制と専門家チーム 高尾忠志・永村景子
9. 宮城県|女川町 復興のシンボル空間を実現した官民連携の仕組み―女川駅前レンガみち周辺地区とデザイン会議の関わり 末祐介
10. 岩手県|上閉伊郡大槌町 シーンで未来を共有する住民協働の復興まちづくり―「大槌デザインノート」によるボトムアップ型デザインアプローチ 二井昭佳

関連情報

刊行イベント:
『色彩の手帳』+『まちを再生する公共デザイン』出版記念トークイベント 「公共デザイン±色彩」 (二子玉川蔦屋家電BOOK 2019年10月24日)
https://store.tsite.jp/futakotamagawa/event/architectural-design/9860-1154210924.html
 
『まちを再生する公共デザイン―インフラ・景観・地域戦略をつなぐ思考と実践』出版&増刷決定記念トーク「まちを再生する公共デザインのアプローチ」 (学芸出版社 2019年7月23日)
https://kenchiku.co.jp/event/evt20190710-1.html
 
書籍紹介:
【マーチィに訊け!】 (『おッ!!まっちぃ~』第116号 2019年11月1日)
https://www.pref.gunma.jp/contents/100129554.pdf

このページを読んだ人は、こんなページも見ています