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コンテナ船の写真

書籍名

グローバル・ロジスティクス・ネットワーク 国境を越えて世界を流れる貨物

判型など

236ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2019年1月28日

ISBN コード

978-4-425-93161-3

出版社

成山堂書店

出版社URL

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グローバル・ロジスティクス・ネットワーク

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工学系研究科に所属する編者は物流シミュレーションが専門ですが、本書にはシミュレーションの結果はほとんど出てきません。本書は、より現実に即したシミュレーションを実施するために編者や共著者たちのグループが世界各地を訪問して収集した、いま世界の物流がどうなっているかというリアルな実態を紹介する本です。物流は企業 (取引) 活動の一部で関係者も多いため、誰でもアクセスできる網羅的なデータベースというものは存在しません。そのような中で、世界的視点で物流の全貌を明らかにする試みの一環として本書を構想しました。
 
具体的には、第1章で物流のグローバル・ヒストリーを概観したあと、本書は大きく2部に分かれます。前半 (第1部) は、国際物流の根幹を支える海上輸送についての紹介です。書籍の表紙に掲載したコンテナ船は、コンテナを1万本以上積載できる非常に大きな船で、工業製品や消費財を中心に、様々な貨物の輸送に利用されています。この他にも、資源を産出国から消費国 (工業国) へ輸送するタンカー (原油や天然ガスの輸送用) やドライバルク船 (鉄鉱石や石炭の輸送用) なども存在します。また、この写真は編者がエジプトのスエズ運河で撮影したものです。スエズ運河はパナマ運河と並び、世界の主要海上輸送航路上に位置する、重要な人工水路です。これら運河の建設の経緯や機能、最近の拡張工事などの解説に加え、近年話題になっている海賊問題や、スエズ運河を通らない北極廻りの航路 (北極海航路) などについても触れています。
 
後半 (第2部) は、世界各地の国際陸上貨物輸送についての紹介です。日本は周囲を海に囲まれているため実感が湧かないと思いますが、世界には海岸線を持たない内陸国が多数存在します。現代においては、内陸国や内陸地域に存在する都市は、グローバルマーケットへのアクセス (海上輸送) を意味する港湾へ到達するまでの距離が遠く、物流上の大きなハンディキャップを抱えています。特にユーラシア大陸の最奥に位置する中央アジアや経済規模の大きな内陸国が多数存在するアフリカ等では、国境を跨ぐ経済回廊開発など、少しでもハンディキャップを軽減するための政策が国際機関や各国政府の援助も受けて実施されています。東南アジアや南アジアの内陸都市でも、同様に港湾との接続や複合一貫 (インターモーダル) 輸送の促進を目的とした政策が実施されています。一方、アメリカ大陸やユーラシア大陸などを主に鉄道で横断するランドブリッジ輸送は、パナマ運河やスエズ運河を経由して大陸を回り込む海上輸送に比べ、料金 (コスト) はかかるものの、時間面では有利です。最近では、こういった回廊開発や物流インフラ開発の援助・投資主体として、国際機関や先進国に加え、一帯一路政策と称して戦略的に施策を展開する中国の存在感が増しています。こうした現状にも本書では触れています。
 
本書の紹介は以上です。冒頭で触れたように、本書は、(定性的な) 文章により国際物流を世界的視点で俯瞰することを目的としました。しかし、後半で述べたような物流施策のインパクトについて議論したり、あるいは中国の一帯一路政策の展開を受け我が国の政府や企業がどう行動すべきかといった議論をするためには、あり得る将来シナリオを立て、物流シミュレーションを実施することによって、定量的な貨物流動の変化や経済インパクトを把握することも必要です。本書を読んでこういったさらなる展開に興味を持った方がもしいらっしゃれば、編者により刊行された、世界各地の物流モデルシミュレーションの結果を多数収録した英語編著『Global Logistics Network Modelling and Policy: Quantification and Analysis for International Freight』も併せてご一読ください。

 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 准教授 柴崎 隆一 / 2020)

本の目次

第1章 グローバル・ロジスティクス・ヒストリー (柴崎 隆一)
 
第1部 世界の海上輸送
 第2章 コンテナ輸送の過去・現在・未来 (古市 正彦)
 第3章 世界のエネルギー輸送 (鳥海 重喜)
 第4章 世界貿易を支える2 大運河: スエズ運河とパナマ運河 (柴崎 隆一)
 第5章 海賊対策:グローバル・ロジスティクス・リスクへの対応 (渡部 大輔)
 第6章 北極海航路:新しい航路への期待 (石黒 一彦)
 
第2部 世界各地の陸上貨物輸送
 第7章 チャイナ・ランドブリッジ: 一帯一路構想の行方 (町田 一兵)
 第8章 シベリア・ランドブリッジ: 欧亜にまたがる国土を活かすロシア (新井 洋史)
 第9章 中央アジア: 世界最大の陸封地域 (柴崎 隆一・新井 洋史・加藤 浩徳)
 第10章 東南アジア: GMS 回廊とメコン川の利用可能性 (柴崎 隆一)
 第11章 南アジア: 成長の鍵を握る物流 (柴崎 隆一・川崎 智也)
 第12章 北米大陸: 大陸横断鉄道のさきがけ (柴崎 隆一・松田 琢磨)
 第13章 アフリカ: 経済回廊開発と内陸国 (川崎 智也・柴崎 隆一)
 

関連情報

関連書籍:
Global Logistics Network Modelling and Policy 1st Edition Quantification and Analysis for International Freight  (ELSEVIER  published in Sept. 2020)
https://www.elsevier.com/books/global-logistics-network-modelling-and-policy/kato/978-0-12-814060-4
 
書評:
根本敏則 (敬愛大学経済学部教授) 評 (『運輸政策研究』Vol.22 2020年)
https://www.jttri.or.jp/members/journal/assets/no78_book-review01.pdf

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