東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に赤の矢印や青のグラフ

書籍名

Progress & Application 4 Progress & Application 知覚心理学

著者名

村上 郁也

判型など

256ページ、A5判、並製

言語

日本語

発行年月日

2019年10月25日

ISBN コード

978-4-7819-1452-7

出版社

サイエンス社

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Progress & Application 知覚心理学

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心理学に明るくない人はまず書店に足を運び、書架に並ぶ一般書から大まかなイメージをつかむかもしれない。しかし、そのようなイメージとはほど遠い広大な研究領域にわたって心理学は発展し続けており、大学などではそうしたさまざまな領域からの情報発信を初学者向けに行う必要がある。その足がかりになるために基礎的な知識をコンパクトな教科書にまとめる試みが、「Progress & Application」心理学シリーズであり、本書は特に「感覚・知覚」という呼び名でくくられる領域の最新知識を一冊にまとめたものである。
 
知覚心理学に関する基礎知識をパッケージ化して提供することは、大学の学部授業や高校心理学教育などでの需要を満たすためだけでなく、公認心理師の受験資格に必要な学部科目のひとつ「知覚・認知心理学」の授業展開にとっても重要である。現在も多くの入門書が出回っているが、本書の特色は、「五感」についてできるだけ平等に説明をしているところ、「入り口」と「出口」を際立たせているところ、そして神経科学を重要視しているところにある。
 
いわゆる「五感」とは、視・聴・味・嗅・触といった互いに質的に異なる感覚のことである。著者自身の専門である視覚の科学に関しては、研究者人口も多く研究史も長いためか、錯覚図形などを含めて初学者向けの教育ノウハウが蓄積されており、知覚心理学の入門書には視覚に大きな比重を置くものもある。しかし、人はあらゆる感覚を用いて世界に対してアンテナを張って動き回っており、各感覚にはさまざまな驚くべき仕組みがあるため、ページ数の制約の中でできるだけバランスよい配分を心がけた。
 
「入り口」と「出口」の区分けとは、感覚データを受け取り生体信号に変えて運ぶのを「入り口」とし、脳の情報処理の結果として何らかの感じが心に浮かび上がるさまを「出口」として、それらが一対一対応ではないことを強調するという試みである。例えば「味わい」のためには、舌での味覚受容という「入り口」だけでなく、視覚・聴覚・触覚・嗅覚・自己受容感覚という「入り口」で受容したデータを組み合わせた計算結果として「味わい」という「出口」の値が決まるのである。いわゆる「五感」に関して「入り口」と「出口」を混同させないことを徹底すれば、すっきりした学びができると考えた。
 
神経科学とのシームレスな関係も重要である。「入り口」の話をしようとすると神経抜きにしては語れず、介在する計算処理にも間違いなく脳が関わっている。「こころ」を語るときは生物的なことは脇に置く、という態度は大昔からありえなかった。例えばこころの哲学の権威デカルトは、実は解剖学の権威でもある。本書では、積み上げの知識を必要とせず神経科学のさわりを随所に組み込むことで、心理学とは脳・神経・計算科学を包み込んだ巨大な学問であることを感じてもらえるように心がけた。

 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 村上 郁也 / 2020)

本の目次

第1章 知覚の問題設定
  1.1 知覚とは何か
  1.2 外界の推定
  1.3 知覚の測定
 
第2章 視覚信号の処理過程
  2.1 眼
  2.2 視覚の感度の指標
  2.3 特徴抽出の初期段階
  2.4 色覚の初期段階
 
第3章 聴覚信号の処理過程
  3.1 音の性質
  3.2 耳
  3.3 脳内聴覚処理の初期段階
 
第4章 嗅覚・味覚信号の処理過程
  4.1 嗅覚信号
  4.2 味覚信号
  4.3 嗅覚・味覚の認識
 
第5章 体性感覚・前庭系信号の処理過程
  5.1 触圧覚
  5.2 温度感覚と痛覚
  5.3 運動と平衡に関わる感覚信号の受容
 
第6章 自己・環境の把握と注意
  6.1 自己身体の把握
  6.2 環境の把握
  6.3 注意
 
第7章 オブジェクトの定位
  7.1 奥行き知覚
  7.2 運動視,時間知覚
  7.3 音源定位
 
第8章 オブジェクトの認識
  8.1 視覚オブジェクトの認識
  8.2 色知覚
  8.3 聴覚オブジェクトの認識
  8.4 力触覚オブジェクトの認識

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