
書籍名
政策をみる眼をやしなう
判型など
208ページ、四六判、上製
言語
日本語
発行年月日
2019年8月23日
ISBN コード
9784492961674
出版社
東洋経済新報社
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本書は、2019年3月に開催されたシンポジウム「政策をみる眼をやしなう」(京都大学経済研究所主催) の記録です。第I部の講演と、第II部の討論からなります。このシンポジウムの狙いは、「政策をみるための拠りどころとなる座標軸とはどのようなものか、その座標軸からみたとき現代の政策はどのようにとらえられるのかを考えること」(溝端佐登史先生の「序」より) にあります。このシンポジウムでは、学界のみならず、政策報道のメディアの方や、現役の役人の方も招いて議論が交わされました。以下では、シンポジウムに登壇していただくきっかけとなった、講演者の方々の最近の著書や論文を紹介することで、本書の解説に代えることとします。
第1講演者の時事通信社・軽部謙介氏は、『官僚たちのアベノミクス』(岩波新書、2018年) において、異形の経済政策がいかに作られたかを、ファクトを積み重ねることで描き出しています。同氏は、ファクトを描き終えた終章で、次のように問題を提示しています。現代日本の議院内閣制の下で「一強」状態の政権が出現したとき、誰がそれを抑えるのか。どのようにしたらアベノミクスをはじめとする政策を、チェック・アンド・バランスの「お白州」に引き出すことが可能となるのか。同氏のこの問いかけは、政策をみるうえでの基本的な立脚点であるといえます。
第2講演者の諸富徹先生は、「財政・金融政策の公共性と財政民主主義」(『思想』2019年4月号、岩波書店、所収) もまた、軽部氏と問題意識を同じくし、日銀の量的緩和政策を財政学の基本原則から検証しています。同氏は、所得分配に逆進的な影響が懸念される量的緩和政策が、議会での議論を通じてその妥当性が検証されないまま、政権の人事や目標設定に縛られ継続されることは、単に金融の問題ではなく、財政民主主義の問題そのものだと指摘しています。本書の講演では、そうした議論のエッセンスが語られています。
第3講演者の佐和隆光先生は、いっそう大局的な視点から、第四次産業革命がもたらすであろう変革への適応のあり方について論じています。ダイヤモンド社のPR誌『経Kei』での同氏の連載「第四次産業革命とは何か」において、現代社会を歴史にさかのぼりながら俯瞰し、例えば、過去の産業革命がもたらした光と影や、トマス・モアやケインズに学ぶ教訓、現代的なテーマとしてAIは人間の職業をどこまで奪うか、といった興味深い内容が論じられています。
繰り返しになりますが、本書の狙いは、政策をみるための座標軸とは何か、その座標軸からみたとき現代の政策はどうとらえられるか、ということを考えることにあります。このことについて、本書が何らかの示唆をもつのであれば望外の喜びですし、また関心のある方々には、以上で紹介したこれら講演者による著書や論文もお薦めします。
(紹介文執筆者: 農学生命科学研究科・農学部 准教授 小嶋 大造 / 2020)
本の目次
第I部 講演
講演1 政策報道の現場で考えたこと ― メディアは何をどう伝えるべきなのか ― 軽部謙介
講演2 財政金融政策における裁量と規律 ― 財政民主主義の視点から黒田日銀の量的緩和政策を検証する ― 諸富徹
講演3 第四次産業革命への適応 ― 政府は何をすべきか ― 佐和隆光
第II部 討論
パネル・ディスカッション
パネリスト 佐和隆光・諸富 徹・軽部謙介
コメンテーター 末光大毅
司会 小嶋大造
関連情報
京都大学経済研究所シンポジウム 「政策をみる眼をやしなう」 (京都大学経済研究所 2019年3月2日)
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/event/2019-01-10