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パステル調の油絵のような表紙

書籍名

高等教育シリーズ176 専門職の質保証 初期研修をめぐるポリティクス

判型など

336ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2019年9月25日

ISBN コード

9784472405860

出版社

玉川大学出版部

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専門職の質保証

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本書は、専門職養成に関する橋本編 (2009)、同編 (2015) に続く三編目に当たります。これまでの著作では、国家-大学-市場という専門職の養成レジームを想定し、そのなかで働く独自のロジックや政治的側面に着目してきました。本書ではこれまでの問題関心を引き継ぎながらも、専門職の「初期研修」を取り上げて、その「質」保証がどう制度化されてきた (あるいはされつつある) のかについて、歴史的に分析することにしました。
 
一般的に言えば、現代の専門職養成には、高等教育機関における入学試験-専門教育-国家試験-初期研修-生涯にわたる学習機会などといった、一連のプロセスが想定されています。そして、それぞれのステージで、さまざまな形での専門職の「質保証」の仕掛けが設定されていますが、今日、最も強い関心を持たれているのは、初期研修です。初期研修は、高等教育と現場の専門業務を橋渡しする、言い換えれば教育機関での「理論知 (学知)」と現場業務での「実践知 (現場知)」とを有機的にリンクさせる役割を持っていますが、近年になってこの制度が急にクローズアップされてきたのは、高等教育と現場実務との齟齬やギャップが広がり機能不全を起こしているのではないかという懸念が、人々の間で大きくなってきているからでもあります。
 
本書が着目した理由は、まさにここにあります。初期研修が教育と現場との結節点であり、その在り方に関する政策や議論から、専門職の養成に関わるアクター群の意図や思惑がどうのように絡み、また捉え所のない「質」がどう定義されまた構成されてきたのかを浮き彫りに出来るのでは、と考えたからです。
 
そこで、本書ではこれまでの著作でも扱ってきた医師、弁護士、教師といった伝統的な専門職のほかに、看護師、管理栄養士、心理職、保育士、社会福祉士など8職種を幅広く取り上げました。そして職種ごとに、初期研修の目的論、期間、実施場所などの設定などその制度化をめぐって、養成に関わるアクターがどのような言説活動を繰り広げてきたのかについて丹念に追いかけ、各職それぞれのロジックや戦略を明らかにした上で、専門職全般の質保証についての考察を深めることとしました。 
 
以上のように、本書は初期研修制度を覗き穴としつつ「質」保証の議論を横断的に俯瞰しました。特定の職種だけでなく、広く専門職全般について考察を深めたい読者に、ぜひ手にとっていただければ幸いです。
 
 
【参考文献】
橋本鉱市 編 (2009)『専門職養成の日本的構造』玉川大学出版部
橋本鉱市 編 (2015)『専門職の報酬と職域』玉川大学出版部


 

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 教授 橋本 鉱市 / 2020)

本の目次

第一章 専門職養成における初期研修
1 研修とは
2 “初期研修”を表す言葉
3 初期研修の機能と役割
4 制度化とそのプロセス
5 初期研修の構成要素
6 本書の構成と概要
 
第二章 医師―法制化への制度的桎梏
1 戦前期の“実地修練”制度
2 戦後における医師の初期研修
3 医師における初期研修の構成要素
4 おわりに
 
第三章 法曹―統一的養成理念と量的拡大への対応
1 はじめに
2 戦前における法曹の初期研修
3 戦後における法曹の初期研修
4 構成要素とそのロジック
5 おわりに
 
第四章 教員―国家主導による法定初任者研修の成立過程
1 はじめに
2 “試補制度”構想の残存
3 臨時教育審議会第三部会における初任者研修制度の立案過程
4 教員研修の“覇権争い”としての初任者研修制度
5 教員の“初任者研修”の構成要素
6 おわりに
 
第五章 看護師―専門職化にともなう知識の再配置
1 はじめに
2 養成と業務のギャップの拡大
3 日看協による卒後臨床研修の制度構想とそのロジック
4 努力義務化された卒後臨床研修の概要
5 おわりに
 
第六章 管理栄養士―現場ニーズへの対応と実質化
1 はじめに
2 二〇〇〇年栄養士法改正の過程における初期研修をめぐる言説
3 “管理栄養士初任者臨床研修”(日本栄養士会医療部会) について
4 日本栄養士会の生涯教育制度と初期研修
5 最後に
 
第七章 社会福祉士―アイデンティティ形成としての初期研修
1 はじめに
2 日本社会福祉士会の生涯研修制度の変遷
3 社会福祉士における初期研修の構成要素
4 “共通”に必要な力量形成としての初期研修
 
第八章 保育士―個別施設指向型の継続
1 はじめに
2 保育士の研修 (初期研修) の制度的な変容
3 保育士における初期研修の構成要素
4 おわりに
 
第九章 心理職―国家資格問題と職域を超えた制度の模索
1 はじめに
2 臨床心理士資格に至るまで
3 臨床心理士資格と初期研修 (一九九〇年代以降)
4 公認心理師資格と初期研修 (二〇一〇年代以降)
5 公認心理師法施行後の展開 (二〇一七年以降)
6 心理職の初期研修をめぐる議論の移行過程と構成要素
7 おわりに
 
終 章 初期研修の制度化とその行方
1 構成要素
2 初期研修の構成要素とその達成度
3 初期研修の実施主体
4 初期研修の今後の行方と課題
 
(執筆者)
石井美和 第三章 (共著)、第八章
井本佳宏 第五章
白旗希実子 第七章
鈴木道子 第六章
髙橋哲 第四章
橋本鉱市 第一章、第二章、第三章 (共著)、終章
丸山和昭 第九章
 

関連情報

書評:
大久保俊輝 (亜細亜大学特任教授) 評「教員・保育士・医師など職種横断的に論ず」 (日本教育新聞NIKKYO WEB 2019年12月16日)
https://www.kyoiku-press.com/post-210928/

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