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パステル調の油絵のような表紙

書籍名

高等教育シリーズ169 専門職の報酬と職域

判型など

272ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2015年9月16日

ISBN コード

978-4472405266

出版社

玉川大学出版部

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専門職の報酬と職域

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今日、医師や法曹をはじめとする専門職は大きな社会変動の中に置かれています。いずれの分野でも、専門的業務に関わる公的・私的資格が増え、それぞれの職域がオーバーラップし、従来のような業務独占が成り立ちにくくなっていることに加え、その報酬も低下傾向にあります。ここで言う職域とは、各職が自らの知識・技術の適応範囲として管轄権を主張できる領域、報酬とはそれらに対してクライアント (顧客) から受け取るべき対価ということになります。しかし、ある特定の知識や技術は、それ自体が特別な意味を持っているわけではありません。それらをある職業集団が独占し閉鎖化することで、それらの獲得・伝達・実地への適用が意味を持つのであり、それが成功裡に進められていく中で、当該集団は「専門職 (Profession)」という社会的な認知と地位を得ていくと考えらます。したがって、専門職集団は自らの地位を安定的に維持しようとすれば、つねに自らの業務の範囲とそれに見合う報酬の正当性を主張せざるを得ません。そして、そうした活動は近年に限られる問題ではなく、歴史を振り返ってみれば、むしろ近代 (以前) から現在に至るまで綿々と繰り返されてきたことがわかります。それでは、各専門職は自らの知識や技術を報酬を得るに値するものとして社会の中でどのように位置づけ、またそれがどの範囲にまでおよぶ (もしくは隣接職種から奪い取る) ものとして主張してきたのでしょうか。筆者らは、その主張にこそ、専門職の知識と技術のあり方を解く鍵が隠されていると考えました。
 
本書は、このような問題関心のもと、8人の研究者が手分けして、さまざまな専門職の職域・報酬に関する議論を歴史社会学的に研究したものです。本書で扱う専門職は、医師、弁護士、聖職者、義務教育学校教員、高等学校教員、管理栄養士、看護師、保育士、社会福祉士の9つで、伝統的・典型的な専門職から、近年に専門職として認知されるようになった職種まで幅広くカバーしました。またそれぞれの職域・報酬の制度的基盤が形成された時期に焦点を絞り、各専門職団体の機関紙や公的な議事録などで繰り広げた主張 (言説活動) を丁寧にひもとくことで、専門職集団が全国レベルでどのようなことをクレイムしていたか、そこには職域や報酬を正当化するいかなるロジックが含まれていたかを明らかにしようとしました。そして専門職のみならず、日本の職業集団が近代 (以前) から抱える制度的な制約と文化的な特徴を浮かび上がらせることを目論んだのです。
 
本書は、2009年に筆者が編集した『専門職養成の日本的構造』の続編に当たるものです。いずれも専門職に関する研究書ですが、専門職をめぐる近年の議論を相対化する材料と視点を提供できればと考えています。
 

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 教授 橋本 鉱市 / 2017)

本の目次

第一章 問題の所在と本書の概要
第二章 医師――「家業」再生産と専門職化との葛藤
第三章 弁護士――仕切られた制度における自由専門職
第四章 聖職者――奉仕の業の社会的変容
第五章 義務教育学校教員――労働運動による専門職待遇の実現を目指して
第六章 高等学校教員――「灯火」としての独自給与体系
第七章 管理栄養士――実質的業務独占・職域確保に向けた職能団体の主張
第八章 看護師――量の確保という桎梏
第九章 保育士――福祉領域の教育職という困難
第一〇章 社会福祉士――曖昧な業務からの報酬 (職域) 確保運動
 

関連情報

書評:
『教育社会学研究』第98集 (2016年05月) 250~253頁
 

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