東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

真っ白な表紙、黒と赤の題字

書籍名

人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか

判型など

366ページ、四六判、仮フランス装

言語

日本語

発行年月日

2017年4月20日

ISBN コード

978-4-7664-2407-2

出版社

慶應義塾大学出版会

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか

英語版ページ指定

英語ページを見る

日本には、さまざまな経済問題、そして労働問題があります。なかでもその根幹に位置する重要な問いとして「人手不足なのに、なぜ賃金は上がらないのか」があります。
 
経済学の教科書をのぞいてみると、人手不足、すなわち労働市場の需給が逼迫すると、価格調整機能にしたがって実質賃金が上昇し、新たな均衡が実現すると、かならず書かれています。しかし、深刻な人手不足にかかわらず、市場メカニズムが想定するような、賃金の着実かつ大幅な増加が見られない状況がこれまでずっと続いてきました。いつか賃金は大きく上がり始めるだろうだと思われながら、結局、ほとんど上がらないままできたのです。
 
21世紀初頭の日本の労働市場に起きているのは、いわば好況期における「賃金の上方硬直性」とでもいうべき新現象です。そこでは、経済理論のうち、市場の需給調整機能を重視する新古典派はもちろん、不況期における賃金の下方硬直性を主張したケインズ派さえも想定してこなかった状況が、日本で生じているかもようにも思えます。
 
だとすれば、人手不足が長く続いているにもかかわらず、賃金がいっこうに上昇軌道に乗らない理由とは何なのでしょう。それは、国内において高い関心があるのみならず、今後は世界的な関心を集める可能性を有した新たな問いかけです。
 
そこで本書では、それぞれの分野の第一線で活躍する研究者や実務家の方々に、次の2つの問いについて、ご検討いただきました。
 
    1. 人手不足が続いているにもかかわらず、なぜ賃金が上がらないのか。

    2. 賃金を上げることが今後可能だとすれば、いかにして実現できるのか。
 
その結果、16組の方々から執筆のご快諾をいただきました。人手不足なのに賃金が上がらない理由の解明という野心的なテーマの追及にとって、これ以上ない執筆陣にご寄稿いただいたと、編者として自負しています。
 
本書を企画し、執筆者のみなさんにご寄稿の依頼をする際、事前に内容の明確な調整や棲み分けはあえて行いませんでした。本書全体を読んでいただくと、多くの論考のなかに、はからずも共通した内容が少なからず発見されると思います。一方で、それぞれの章には、他の論考には含まれない独自の見解も多岐に渡って示されています。それだけ賃金停滞の背景は複雑であって、一様でないこともご理解いただけるでしょう。
 
本書の総括では、各章の内容を次の7つのポイントから整理しました。
 
【需給】労働市場の需給変動からの考察
【行動】行動経済学等の観点からの考察
【制度】賃金制度などの諸制度の影響
【規制】賃金に対する規制などの影響
【正規】正規・非正規問題への注目
【能開】能力開発・人材育成への注目
【年齢】高齢問題や世代問題への注目
 
人手不足にもかかわらず賃金が上がらないのは、解明不可能なパズルなのか。それとも、その理由について納得のゆく見解を示すことができるのか。その評価と判断は、本書を手に取っていただいた読者のご判断におまかせしたいと思います。
 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 教授 玄田 有史 / 2017)

本の目次

第1章  人手不足なのに賃金が上がらない三つの理由    近藤絢子
第2章  賃上げについての経営側の考えとその背景    小倉一哉
第3章  規制を緩和しても賃金は上がらない――バス運転手の事例から    阿部正浩
第4章  今も続いている就職氷河期の影響    黒田啓太
第5章  給与の下方硬直性がもたらす上方硬直性    山本 勲・黒田祥子
第6章  人材育成力の低下による「分厚い中間層」の崩壊    梅崎 修
第7章  人手不足と賃金停滞の並存は経済理論で説明できる    川口大司・原ひろみ
第8章  サーチ=マッチング・モデルと行動経済学から考える賃金停滞    佐々木勝
第9章 家計調査等から探る賃金低迷の理由――企業負担の増大    大島敬士・佐藤朋彦
第10章  国際競争がサービス業の賃金を抑えたのか    塩路悦朗
第11章  賃金が上がらないのは複合的な要因による    太田聰一
第12章  マクロ経済からみる労働需給と賃金の関係    中井雅之
第13章  賃金表の変化から考える賃金が上がりにくい理由    西村 純
第14章  非正規増加と賃金下方硬直の影響についての理論的考察    加藤 涼
第15章  社会学から考える非正規雇用の低賃金とその変容    有田 伸
第16章  賃金は本当に上がっていないのか――疑似パネルによる検証    上野有子・神林龍
結び  総括――人手不足期に賃金が上がらなかった理由
 

関連情報

関連記事:
「これだけ深刻な人手不足なのに、いつまでも賃金が上がらない理由」現代ビジネス、2017年5月17日
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51726
 
「人手不足なのに賃金が上がらない本当の理由とは」nippon.com、2017年8月2日
http://www.nippon.com/ja/currents/d00342/
 
「人手不足と賃金停滞」NHK『視点・論点』2017年8月30日
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/278831.html
 
書評:
日本経済新聞朝刊 2017年6月10日
朝日新聞朝刊 2017年7月2日
週刊エコノミスト 2017年7月3日号
週刊東洋経済 2017年7月3日号
経済セミナー 2017年8・9月号
キャリアデザイン研究 Vol.13(2017年)
 

このページを読んだ人は、こんなページも見ています