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赤と黒の表紙

書籍名

日本の労働市場 経済学者の視点

判型など

430ページ、A5判、並製カバー付き

言語

日本語

発行年月日

2017年11月

ISBN コード

978-4-641-16512-0

出版社

有斐閣

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日本の労働市場

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日本の社会は人口減少と高齢化が同時に進んでいます。これまでの65歳までは現役層、それ以降は高齢者で基本的に引退するという社会構造が持続不能であることは間違いありません。そのような環境の中で、高齢者の雇用をいかに促進するのか、外国人労働者をどのように受けいれていくのか、女性の活躍をどのように促進するのか、労働者一人一人の生産性を高めていくのか、といった労働に関する問題が山積しています。また、人口減少と高齢化は地方部においてより速いペースで進行しており、都市部と地方部の間の格差問題が顕在化しつつあります。さらに、情報通信技術の急速な発達とグローバル化の進展という1990年代から起こっている社会全体に大きなインパクトを与えている変化を受けて、その恩恵に被れる労働者とそうでない労働者の間の格差が徐々に拡大してきているという問題も生まれてきました。
 
労働経済学はこれらの問題が、家計や企業の最適化行動とそれらが交わりあった均衡として出現していると考える学問です。その大きな視点から零れ落ちる多くの重要な論点があることも事実ですが、一つの大きな理論体系に基づいて、様々な現象をとらえるという視点も表面上の変化に隠れた本質的な社会の変化をつかむためにはとても重要です。本書の前半では様々な労働問題を労働経済学の視点から整理した場合にどのような分析ができるかを各分野の第一人者に執筆してもらったものです。基本的な理論的な視点のほか、日本における制度、すでに知られている実証分析の結果などが手際よくまとめられています。一方で、後半では労働経済学の中で用いられる理論分析、実証分析、実験の手法について、労働問題への応用という視点から、やはり第一人者に整理してもらいました。
 
労働問題を取り扱う学部や大学院のゼミなどで用いるのに好適なテキストになっていると思います。各章の担当者に執筆依頼をする際には、労働経済学の分野で卒業論文や修士論文を書こうとしている学生が最初に該当章を読むことで、研究を始められるということを前提にして執筆してください。と依頼しました。それぞれの章の執筆者はそれによく答えてくれたと思います。出版の前に、原稿を持ち寄ってブックコンファレンスを行い執筆者間での意見交換をしたり、数名の方に詳細に読んでもらいコメントをしてもらったりして、丁寧に作りこみました。多くの方に読んでもらえとありがたいと思っています。
 

(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 教授 川口 大司 / 2019)

本の目次

  序  章  社会経済環境の変化と今後の労働市場の課題(川口大司)
第1部 労働市場と技能形成
  第1章 日本的人事の変容と内部労働市場(大湾秀雄・佐藤香織)
  第2章 労働契約・雇用管理の多様化(玄田有史)
  第3章 人的資本と教育政策(佐野晋平)
 
第2部 労働市場における課題と政策対応
  第4章 地域経済が抱える課題と労働市場(太田聰一)
  第5章 高齢者雇用の現状と政策課題(近藤絢子)
  第6章 女性活躍が進まない原因(原 ひろみ)
  第7章 移民・外国人労働者のインパクト(神林 龍・橋本由紀)
  第8章 障がい者雇用を取り巻く現状と課題(坂本徳仁・森悠子)
  第9章 失業保険政策(酒井 正)
  第10章 貧困問題と生活保護政策(勇上和史・田中喜行・森本敦志)
 
第3部 労働経済分析のフロンティア
  第11章 エビデンス・ベースの労働政策のための計量経済学(小原美紀)
  第12章 労働経済理論(川田恵介)
  第13章 労働経済学における実験的手法(佐々木 勝・森 知晴)
  第14章 労働経済学における行動経済学的アプローチ(大竹文雄)
  終   章 社会の課題に労働経済学はどのように応えるのか?(川口大司)
 

関連情報

書籍紹介:
「活字の海で 受け入れ拡大で日本はどう変わる 外国人労働者を多面的に考察」 (『日本経済新聞』 2019年1月26日付朝刊)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO40468870V20C19A1MY5000/
 
書評:
佐々木隆文 (中央大学教授) 評 「証券アナリスト読書室」 (『証券アナリストジャーナル』第56巻第8号)
https://www.saa.or.jp/learning/journal/each_title/2018/08.html
 
清家 篤 (日本私立学校振興共済事業団理事長、慶應義塾大学商学部客員教授) 評 読者ノート (『日本労働研究雑誌』No.694 2018年5月号)
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2018/05/pdf/077-078.pdf
 

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