働く現場では、様々なトラブルが日常的に発生しています。長時間労働が慢性化している職場で、その原因を探ってみると「とても自分だけ帰れるような職場の雰囲気ではないから」とか「他の人もそうだから仕方がない」といったことが指摘されたりします。しかしながら、労働時間をはじめとする基本的な労働条件は、雰囲気や仕方がないといったことによって左右されるものであっては本来ならないものです。
すべては雇用関係を取り決める際に交わされたはずの「契約」にしたがって働くことが最優先されるべきです。職場の和や協力が大事であるのは言うまでもありませんが、それも約束した契約の内容が守られることが大前提です。契約を超えた合意のない働き方は、雇われて働く人の意思を無視した強制以外の何ものでもありません。
そこで本書では、雇用は契約であるという原点に立ち返ることで、働く社会に起こっている現実を見つめ直しました。特に雇用契約のうち、本書の中心となったのは「契約期間」です。契約期間は、期間の定めのない無期契約 (定年までを含む) と期間の定めがある有期契約に大きく分類できます。あわせて契約では、働く時間として職場で通常定められた一般時間と、通常より短い短時間に区分されることになります。これまで雇用社会といえば、無期契約で一般時間働く正社員と、有期契約で短時間働くパートなどの非正社員に二極化しているといったイメージで多くが語られてきました。
しかし、本書を読み進めていくと、実際の雇用社会はもっと多様化が進んでいることを理解いただけるはずです。有期契約でありかつ一般時間で働く人々や、反対に無期契約ながら短時間就業している人々は、けっして珍しくありません。そこには、正社員と非正社員の両方が混在しているのです。
加えて、これまで見過ごされてきた、実際の雇用社会に起こっている深刻な事実として、自分の契約期間がわからないまま働く期間不明の人々が多数いることを本書では指摘しました。期間不明にも、正社員と非正社員の両方が含まれますが、特に期間不明の非正社員が賃金、雇用、能力開発の面などで、特に困難な状況におかれている実態を、データに基づいて明らかにしています。
本書では、これから誰もが納得できる職業人生を歩んでいく上で望ましい雇用社会の方向性も考えました。これからは正社員か否かに過度にとらわれず、状況に応じて契約期間と就業時間をうまく組み合わせていけば、柔軟で安定した職業人生を切り開けることを説明します。あわせて不安定で経済的にも苦しい有期契約の短時間労働や期間不明の仕事に就く人ができるだけ少なくなるような雇用社会こそが目指されるべきであることを、本書では提案しました。
(紹介文執筆者: 社会科学研究所 教授 玄田 有史 / 2018)
本の目次
第2章 大切なのは契約期間
第3章 多様化する契約
第4章 有期契約の現在と未来
第5章 契約期間の不明
第6章 期間不明のさらなる考察
第7章 変わりゆく契約
結 章 契約から考える雇用の未来
関連情報
労働政策で考える「働く」のこれから (リクルートワークス研究所 2018年3月16日)
100年人生、“ギブ&テーク”ではキャリアは創れない
http://www.works-i.com/column/policy/1803_02/
書評:
【書評&時事コラム】「何となく入社」時代は終わった (ADVANCE NEWS 2018年3月27日)
http://www.advance-news.co.jp/column/2018/03/post-1137.html
週末に読みたいこの1冊「雇用は契約」(日刊ゲンダイ 2018年4月14日)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/227149
(週刊エコノミスト2018年4月17日)
https://www.weekly-economist.com/20180417contents/
働き方を捉え直す基礎に (日本経済新聞朝刊 2018年4月28日)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO2993248027042018MY7000/
雇用を基本から見直す (労働新聞社 2018年5月12日)
https://www.rodo.co.jp/column/45752/
橋詰卓司 評: ブックレビュー 玄田勇史『雇用は契約』(サインのリ・デザイン 2018年8月6日)
https://www.cloudsign.jp/media/20180806-koyouhakeiyaku/