「同一労働同一賃金」のすべて
「本年取りまとめる『ニッポン一億総活躍プラン』では、同一労働同一賃金の実現に踏み込む考えであります。」2016年1月22日、通常国会冒頭の施政方針演説において安倍晋三総理大臣が述べたこの一言で、「同一労働同一賃金」の実現が急きょ政治スケジュールに上った。
一億総活躍国民会議での議論を経て、同年6月2日に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」では、(1) 労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法の的確な運用を図るため、どのような待遇差が合理的であるかまたは不合理であるかを事例等で示すガイドラインを策定する、(2) 欧州の制度も参考にしつつ、不合理な待遇差に関する司法判断の根拠規定の整備、非正規雇用労働者と正規労働者との待遇差に関する事業者の説明義務の整備などを含め、労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法の一括改正等を検討し、関連法案を国会に提出する、(3) これらにより、正規労働者と非正規雇用労働者の賃金差について、欧州諸国に遜色のない水準を目指すことが掲げられた。
2016年9月には、安倍総理を議長とし関係閣僚と民間有識者を議員とした「働き方改革実現会議」が設置された。そこでの議論を踏まえ、同年12月20日には、正規か非正規かという雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇を確保することを目的とした「同一労働同一賃金ガイドライン案」が策定された。2017年3月28日には、働き方改革実現会議において「働き方改革実行計画」が取りまとめられた。そのなかで、(1) 司法判断の根拠規定(均等・均衡待遇)の整備、(2) 労働者の待遇に関する使用者の説明義務、(3) 行政による裁判外紛争解決手続の整備、(4) 派遣労働者に関する法整備を主な内容とする、パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法の改正を図ることが謳われた。この「働き方改革実行計画」を決定するにあたり、安倍総理は、「働き方改革実行計画の決定は、日本の働き方を変える改革にとって、歴史的な一歩であると思います。戦後日本の労働法制史上の大改革であるとの評価もありました。……文化やライフスタイルとして長年染みついた労働慣行が本当に改革できるのかと半信半疑の方もおられると思います。……しかし後世において振り返れば、2017年が日本の働き方が変わった出発点として、間違いなく記憶されるだろうと私は確信をしております」と述べている。
2018年6月29日、働き方改革関連法が国会で可決、成立した。「同一労働同一賃金」原則は、2020年4月から施行されることとなった。
この「同一労働同一賃金」改革は、その議論の「スピード感」のみならず、その「内容」面でも日本の企業や労働組合などに衝撃を与えるものであった。正規労働者と非正規労働者間のすべての待遇について均等・均衡待遇の確保を図ろうとするこの改革は、旧来の「正規・非正規」格差を大きく狭めようとするだけでなく、正規労働者を中心とした日本の伝統的な人事労務管理制度に見直しを迫るものであるからである。
本書は、この「同一労働同一賃金」改革の立案・制度化に関わってきた筆者が、この改革の背景と具体的な内容を明らかにすることによって、改革がその趣旨に沿って着実かつ円滑に進められるよう、当事者や関係者の理解を促すことを目的としたものである。
(紹介文執筆者: 社会科学研究所 教授 水町 勇一郎 / 2018)
本の目次
第1章 法改正の経緯―「一億総活躍」「働き方改革」と「同一労働同一賃金」
第2章 法改正の前史―「正規・非正規格差」とこれまでの法的対応
第3章 法改正案の内容―改革の趣旨と改正法案・条文案解説
第4章 法改正の基礎―外国法 (フランス法、ドイツ法) の概要と日本との異同
むすび 「同一労働同一賃金」の実現に向けて
巻末 「同一労働同一賃金」関係諸会議等資料
関連情報
「同一労働同一賃金」のすべて (法学教室 Mar. 2018, No. 450)
http://www.yuhikaku.co.jp/static_files/BookInfo201803-24307.pdf