本書は、日本の労働法を詳しく解説した本である。
労働法については、多くの入門書・教科書・概説書などが公刊されている。そのなかで、本書は、次のような特徴をもつ本になることを目指して執筆されたものである。
第1に、さまざまな形で展開される労働法の実務を広く射程に入れた専門書となることである。筆者がこれまで著した本を例にとれば、『労働法入門』(岩波文庫) は労働法を大学等で勉強したことがない一般の市民の方々、『労働法』(有斐閣) は労働法を専門に勉強している法学部生・法科大学院生を、それぞれ念頭に置いて書いた本であった。本書は、これらとは対照的に、労働法についてある程度知識や経験をもっている実務家 (弁護士、裁判官、政策の企画立案者、社会保険労務士、企業の人事労務担当者、労働組合役員など) と研究者 (労働法研究者など) を読者として想定し、労働法の実務の世界で生起するさまざまな問題やそれにかかわる論点を広く専門的に考察した本となることを意識して執筆したものである。
第2に、単に労働法の実務的な解説書ではなく、労働法の背景にある歴史と理論に根差した本となることである。労働法の実務に携わる方々とお話をすると、立法や判例の動向はもちろんであるが、その背景にある労働法の歴史や理論に強い興味や関心をもち、その歴史や理論の積み重ねのなかで実務 (自分たち) の立っている位置を確認しながら、前に進もうとされている姿を垣間見ることが少なくない。
歴史のない実務はない。理論のない実務はない。本書では、このような認識に立ち、今日の労働法の基盤・背景にある歴史的な成り立ち・経緯や理論的な考え方・筋道をできる限りわかりやすく叙述し、労働法の歴史・理論と実務との結びつきを意識しながら、今日の労働法をめぐるさまざまな問題を詳しく論じることを心掛けた。
このような大きな課題の実現に向けて、労働法を専門とする弁護士(労働者側・経営者側)、社会保険労務士、政策企画立案者 (厚生労働省OB)、研究者 (労働法学者・社会保障法学者) によるプロジェクトチームを作り、2014年7月から5年間、15回にわたって、本書の刊行に向けた研究会を重ねてきた。この研究会でメンバーの皆さんからいただいたアイディアや知見が、本書を彩るスパイスとなっている。
本書は、日本の労働法の歴史的・理論的な考察を土台に、労働法の理論と実務の融合を志向して書かれた本である。本書が、「働き方改革」を踏まえた日本の労働法の一つの到達点を示す書として、多くの方々に読んでいただければ、うれしい。
(紹介文執筆者: 社会科学研究所 教授 水町 勇一郎 / 2020)
本の目次
第2編 個別的労働関係法
第3編 集団的労働関係法
第4編 労働市場法
第5編 国際的労働関係法
第6編 労働紛争解決法
関連情報
「働き方改革」が始まる時代の羅針盤,ついに登場 (東大出版会ホームページ)
http://www.utp.or.jp/special/laelaw/
書籍紹介:
会社法・契約・人事労務・個人情報保護法のおすすめ書籍は? (BUSINESS LAWYERS 2021年2月10日)
https://www.businesslawyers.jp/articles/896
講座:
東京労働大学講座 特別講座「働き方改革 phase1 & phase2と これからの労働法」 (独立行政法人労働政策研究・研修機構 2021年3月9日)
https://www.jil.go.jp/kouza/tokubetsu/20210309/index.html
研究会 第2848回「2021年の労働法制の行方」 (労働開発研究会 2021年1月28日)
https://www.roudou-kk.co.jp/seminar/workshop/9007/
第140回労働判例命令研究会 (日本労働弁護会 2020年11月16日)
http://roudou-bengodan.org/precedent/%E7%AC%AC140%E5%9B%9E%EF%BC%882020%E5%B9%B411%E6%9C%88%EF%BC%89zoom%E9%96%8B%E5%82%AC/